北の狩人







題名:北の狩人
作者:大沢在昌 
発行:幻冬舎 1996.12.17 初版
価格:\1,751




 『砂の狩人』に触発されて読んだ本。というより、『砂の狩人』は軽いアクション・ノベルだけれど、その中で佐江という、鮫島よりはよほど新宿の匂いが染み付いている刑事の存在が気になって、彼の登場する前作というのを読みたくなってしまったのである。

 そしてこちらは第一弾らしくやはり『砂の狩人』よりずっと密度の濃い面白さを感じさせ、なおかつ設定も独特だった。12年前の事件の秘密を暴くと同時に、現在進行形で張り詰めてゆく新宿支配の構図変換点。そこに現れてしまったのが、秋田県警から休暇を使って個人的に12年前の父の死の秘密を探しにやってきた25歳のタフガイ。

 なんと言ってもこの主人公は阿仁マタギの末裔であり、爺ちゃと一緒に何度も山に入り狩りそのものを生業とする特質を持っている。山の厳粛な狩りに対比して、頽廃の街、極彩色の新宿という圧倒的な距離感を持ったコントラストこそがプロット全体に流れる下地である。

 複雑な人間の欲望絵図がかなり明晰に描写されていて、このあたりは大沢ならではの平易さ、読みやすさ。飾りを廃した徹底的に簡潔な描写と会話体の巧さだけで読者を引っ張ってゆく力は比類ないものがある。

 最後までアクションの切れ目がなく、緊張が続き、壮絶な修羅場を設定している。サービス過剰な点では『砂の狩人』とのシリーズだなと感じるが、プロットの深さや、そのためのめまぐるしさ、また脇役を含めたキャラクターの存在感という点ではこちらのほうがだいぶ上か。

(2002.12.04)
最終更新:2007年06月17日 22:39