天使の牙







題名:天使の牙
作者:大沢在昌
発行:小学館 1995.7.20 初版
価格:\1,700(本体\1,650)




 はっきり言って『新宿鮫』シリーズ以外で大沢作品を読むのは初めてである。というのも「大沢は『新宿鮫』で大化けした」と言われているし、名古屋の作家が何故六本木の小説なんだ、よくいる安直な兄ちゃん作家じゃねえのか、との冒険小説読者特有の軽い差別的軽蔑心なんぞを抱いていたりするせいでもあったのかもしれない。

 そんなわけで特に読んだことがなかった大沢のその他作品だったのだけど、どういうわけか小学館自らプレゼントしてくれた本でもあるし(宝島社あたりから聞いて書評用にと出版社が送ってくれるケースがたまにあるのです。← 「このミス」効果というやつか(^_^))、昨年の冒険作家クラブのパーティでは(大石英司さん+関口苑生さんお世話になりました)大沢在昌氏より『無間人形』へのサインまでいただいちゃったことだしと、とにかく初めてこのたび『新宿鮫』以外を読んだのである(自慢できないよな)。

 さて、でも厚めのハードカバー、腰巻に書かれている歌い文句も美味しそう、危機感たっぷりの装丁・・・・これは『新宿鮫』ではないけれど、大沢在昌にとってはけっこうリキの入った小説みたいだ。まあ、最初にぶちあげられるこの小説の背骨的部分、状況小説としてのまずの面白さ・・・・これが普通なら「アリい、こういうの?」といじめてみたくもなるのだけど、これをいじめちゃうとあと読めないし・・・・なので逆に思い切り楽しむことにしちゃったら、これ一作、大傑作面白小説であるねえ(^_^)。

 最近劇画の原作までしているからこうも劇画的なのか、『新宿鮫』ですっかりエンターテインメントのツボを掴んでしまったせいでこうもぐいぐい引っ張られるのかわからない。でも惑星へのイメージを引っ張り出してきて、結局普通の人間が一人も出てこないなんていう、こうした大寓話的世界(90年代ハリウッドの世界とでも言いましょうか)を、ついこないだ直木賞を取ったばかりの作家がものにしちゃうっていうのは、これでなかなか楽しいものかもしれない。

 面白ければそれでいい、って人と、読む本への最低の規範を前提にする人が、向かい合ってしまいそうなそんな分裂小説であった。

(1995.08.09)
最終更新:2007年06月17日 22:37