天使の爪




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題名:天使の爪 上/下
作者:大沢在昌
発行:小学館 2003.08.10 初版
価格:各\1,700

 『天使の牙』の面白さというのは、大沢在昌の中でも、ひときわ図抜けていた。設定に凄まじい無理があるようにも思えるけれど、逆にこの程度の科学なら、早晩実現可能、と言えないこともないのかもしれない。無理を承知でも、とにかく突っ走らせてしまう、脳移植という近未来的技術による人間再生のドラマ。

 他の作家がこの手の作品を書いても、きっとこれほどには、面白みが出なかったろう。近未来的架空の脳移植という技術から生まれた、アスカという女刑事が、『新宿鮫』ばりのやり手刑事であること。敵の存在が、大沢ならではの、一筋縄ではゆかない存在感を湛えて、都会を牛耳ろうとしている状況。張り詰めた緊迫感と、ジェットコースター・ノヴェルのスピード感。荒々しいバイオレンスと、男と女のタフ過ぎる愛。狂おしいほどの運命。そうしたすべてが、一作に詰め込まれたからこそ、傑作『天使の牙』が生まれたのだろう。

 その続編。前作と同等、あるいはそれ以上の面白さを、読者は期待する。その期待に、応えてくれた、堂々のノンストップ、スリル&アクションの大作が登場してしまった。日本のジェフリー・ディーヴァーは大沢この人であったか、と改めてその実力に脱帽した。

 続編は国際的にスケールアップし、前作の登場人物ストーリーをも引き継いでいる。独立した作品としても十分に娯しめるとは思うが、できれば前作から通しで読んで戴いた方が、味わいは倍増すると思う。

 前作にもまして存在感のある敵手が登場する。狼のイメージ。ぼくの場合、総合格闘技リングスに参戦していたヴォルク・ハンというコマンド・サンボの使い手を、思い出してしまったのだが(ネーミングは明らかにここからインスピレーションを受けていると思う)、彼の存在そのものが本書の仕掛けであるだけに、『天使の……』をシリーズ化させる必要十分条件も、このああたりにある。

 ページを開いた途端に猛然とスタートする緊張のストーリー。本シリーズの発想ならではのドラマが走り出す。脳移植とドラッグ。そして飽くまで捜査官たちの追跡劇。この独創的なアイディアにずっと深みが増してゆく。アスカと仁王。ロシアからやってくる狼と熊。CIA、SVR、SATと各国の特殊機関。プロフェッショナルたちによるクロスファイア。

 東京の街を血と火薬に染めてゆく大がかり展開と、度肝を抜くアクション。前作を超えたスケールと緻密なストーリー。佐久間公シリーズの静に対し、動のリーグでは、間違いなく大沢ベスト作品となるだろう。

(2003.08.24)