彼岸の奴隷





題名:彼岸の奴隷
作者:小川勝己
発行:角川書店 2001.5.25 初版
価格:\1600

 デビュー作『葬列』の最終行の強烈さは日本クライムノベル史に残るのでは、と思ってしまうくらいの印象を見事に残してくれたのだけれど、あの作品で見られた狂気のガンマニアぶりを、そこだけに焦点を絞って、さらに沢山のキャラたちを使ってクレイジーに激突させるとこんな物語になるのかもしれない。

 もちろんガンマニアだけにはとどまらない。馳星周が帯で言っているように「なにもかもがとち狂っている」のがこの作品。ありとある異常性交のガレージセールとでも言いたくなるようなヤクザの若頭。こんな悪玉を見ると他の作家のキャラが霞んでくる。

 二人の刑事も二人のヒロインも各自それぞれに異常な道を歩んできた狂気の持ち主ばかりだし、誰もがガンマニアで修羅場オタク。一見そうは見えない若手刑事すら鬼のような過去を引きずってトラウマの見本市のような存在。

 というわけで相当に異常で気持ちが悪い空気が作品世界を澱のように臭わせているのだけれど、文体はむしろ乾いていて、活劇にこそその醍醐味があるとでも言いたくなるほどに火薬量大放出であるところは、前作と同じ。乾いた狂気による殺伐とした現場演出の凄さとでも言っておこうか。

 娯楽小説としては文句なしに面白いのだけれども、はてどこまで自分のうちに残る作品であるかと言うと、それは大変に心もとない。ある程度割り切って飛び込むべき血と硝煙の世界であるのかもしれない。

(2001.09.25)
最終更新:2007年06月17日 22:26