眩暈を愛して夢を見よ






題名:眩暈を愛して夢を見よ
作者:小川勝己
発行:新潮ミステリー倶楽部 2001.8.20 初版
価格:\1600




 独自な作家ではあるなあと思っていたが、ここまで奇妙な作りの作品を書くとまではさすがに予想だにしていなかった。今までの二作はいわゆる日本離れしたドンパチ活劇だったのだけれど、本作は静かな日常の中に忍び寄った血と狂気と夢と幻惑の世界。

 乱歩的な世界とも言えるし、初期山田正紀あたりがミステリーで使いそうな手法でもあるし、一人称小説の持つ不可思議な語りの視点を絡めに絡めた錯綜のモザイクでもある。作中作、劇中劇を用いた多重構造の物語というのはそれだけでもわかりにくいのだが、実に多くの物語が内包された奇妙な本なのだ。

 本格、ではないし、サイコでもないし、ミステリーですらないような奇妙なジャンルでありながら、本格とサイコの両方の楽しさを味わえるし、前衛小説と言えなくもない。その仕掛けに関しては読んでのお楽しみだと思うけれど、ぼくはと言えば、こういう仕掛けは嫌いである。

 それなりに一気読みしたけれど、それは作品構造そのものへの興味。裏の裏がどうなっているのか知りたいという心のはやり。そういうのが面白い本と言うのかもしれないけれど、ぼくはしかし好きではないのである。

 ただこの作家の異様なまでの鬼才ぶりが、遺憾なく発揮された作品ではあると思う。この手の作品の方向に走ってゆくとは思えないのだけれど、作家として厚みが増したかと言わせるものは確実に育って来ているのかもしれない。

(2001.10.08)
最終更新:2007年06月17日 22:25