撓田村事件 ―iの遠近法的倒錯―





題名:撓田(しおなだ)村事件 ―iの遠近法的倒錯―
作者:小川勝己
発行:新潮社 2002.10.20 初版
価格:\1,900-

 この作家が本格推理を書く。意表を衝くのもいい加減にして欲しいのだが、思えば、この作家から意表を衝くことを取ったらどうなるものか。奇才。鬼才。怪作。そういう表現が似合う男、小川勝己。またもやってくれたのが珍しく本格ミステリー。それも横溝正史を意識しての、ずれまくり小説。

 いきなりミステリーに見えない書き出し。映画なら山田洋次あたりが似合う田舎の長閑さ。でも岡山の山に囲まれたへき村。あぜ道や坂道を通う中学生たちの長い長いイントロ。寄り道だらけの中に中学生たちの淡い恋愛関係などを軽いストーリーとして走らせながら、その実、ばら撒かれてゆく伏線の山だとはそのときには気づかず……。

 和洋折衷とも言える妖気を副えて、やがて惨たらしい殺人劇が……。多くの人物が絡み、錯綜した人間関係は、地主の系譜を軸に真贋混交しと、よほど明晰でないとわからなくなってくるのだが、そこは中学生の視点。時折り30年前の未解決事件を抱え込む老刑事の視点を挟みつつ。

 玉石混淆と言おうか。真面目なのか、ふざけているのか、作者のお手玉のうちにすっかり心を奪われながらの大作一気読みとなってしまった。どこかふざけた名探偵のアンチヒーローぶりと臭いジョーク。レトロな引き出しも沢山使ってよくぞ仕上げたなと思うまさに本格ニューウェイヴ(新本格ではないでしょう)。

 主人公の少年は狂言回しみたいではあったけれど、ラスト、紙芝居を作り続ける少年のシーンはまるで大林信彦のノスタルジィ溢れるモノクロ映画みたいに悲しくシックでじーんと来る。こういう視点がこの大作を成功させている秘訣だなあとつくづく思う。

 『このミス』投票に間に合わなかったことが実に惜しまれてしまった。もう少し余裕を持って出版していたらベスト1クラスの大当たり作品であったかもしれない。

(2002.11.15)