あなたまにあ





題名:あなたまにあ
作者:小川勝己
発行:実業之日本社 2004.10.25 初版
価格:\1,600




 この作家に関しては、たびたび奇才とか鬼才と表現される。奇才と鬼才の違いが何であるのかよくわからないが、映画監督では岡本喜八などがそんな表現でよく形容される。ある意味賞賛の言葉であるのだろうが、奇才というのは主流ではない、ということなのだろうか? それとも変わり者というような意味で使われるのだろうか。ともかく出版社自らが奇才もしくは鬼才の表現でこの作家を売り出しているのは間違いない。

 ぼくは横溝正史賞受賞作『葬列』に始まる乾いたアクション・エンターテインメント作家としての小川勝己が好きなのだが、もともと横溝正史賞に応募しただけあって、そうしたおどろおどろしい側、ノスタルジックで、大正文化的な浪漫の側にも傾くことがあるのが、この人の特徴でもある。『撓田村事件』は横溝正史に掲げたオマージュとも言える、辺鄙な村社会を舞台にした本格ミステリーであり、そちらの方面でもきちんと娯楽小説を書いてくれるこの人の才能には少々驚かされた。

 一方で『まどろむベイビーキッス』『狗』などの、桐野夏生ばりの現代女性ホラー小説、あるいは少女版悪漢小説みたいなものに一種独特の才能を走らせたり、『眩暈を愛して夢を見よ』などの幻想小説を書いたりもする。

 本書はこの作家の中ではノスタルジック・ホラーに位置付けられる短編集で、第一短編集『ぼくらはみんな閉じている』に続くもの。残念ながら『ぼくらは……』に比べて小品が多く、全体として物足りない印象があるのだが、それでも奇怪さや不気味さ、グロテスクぶりなどは、相変わらず生きていて独特の世界を作り出している。

 いつかどこかで訊いたことのあるような怪談。遠い昔に囁かれた記憶のあるような恐怖体験。日常から滑り落ちてゆくような気味悪さ。そんな昔風怪奇物語に軽く心を揺るがしてみたい方に手ごろな一冊と言えるかもしれない。

(2005.01.24)