パートナー







題名:パートナー
原題:The Partner (1997)
作者:John Grisham
訳者:白石朗
発行:新潮社 1998.10.25 初版
価格:\2,300


 ここのところ素晴らしいページターナーぶりを発揮しているグリシャム。何と言ってもこの作家の素晴らしいのは「つかみ」。初っ端から恋人の自動車を爆発させたり、小さな少年の前で身も知らぬ男がピストル自殺したり、無罪を勝ち取った犯罪者を裁判所の出口で犠牲者の父親が処刑しちゃったり、ととにかく派手な出だしではダントツの作家、それゆえ映画にもなりやすいのか、と思われるのがこのグリシャム節。

 本作でもしっかりした「つかみ」を見せる。いきなり一群の男たちが逃亡者を発見するところに始まる。すぐには拉致しない。もう二度と逃がさない。ここまでの追跡の年月が語られる。うう、素晴らしい「つかみ」だ。たいていはこれだけで最後まで読めてしまうのではないだろうか。

 こんな話がどうしてこんな分厚い本になるのだろうか、と頭の中を疑惑でいっぱいにしながら読んでいるうちに、なぜこの逃亡者が逃げていたのかが、次第に明らかになる。いつのまにか捕まった逃亡者がヒーローのように見えてくる。凝った仕掛けには驚かされる。これだけどんでん返しが多いとなると、もうコンゲーム小説と言っていいと思う。否、その面白みの方がむしろ大きい。

 そしてグリシャムがこれまで何度となく使ってきたシチュエーションであるところの「謎の美女の暗躍」もきちんとある。主人公は天才的だが、片腕となり動くのはやはり謎の美女でなければならないみたいだ。そして衝撃のラストがタイトルの"The Partner"をいきなり浮き立たせるかもしれない。法律事務所の「パートナー」と片腕という意味での「パートナー」を重ねたタイトルと言うべきか。

 かなり娯楽色と遊び心の強い、グリシャム版『スティング』と言ったところか。

(1998.11.11)
最終更新:2007年06月17日 21:18