路上の弁護士







題名:路上の弁護士
原題:The Street Lawyer (1998)
作者:John Grisham
訳者:白石朗
発行:新潮社 1999.10.25 初版
価格:\2,200


 毎作毎作、安定した(それも高度の)面白さを供給してくれるヒット・メイカー=ジョン・グリシャム。さながら法律界のディック・フランシスとでも言うべきか。前作『パートナー』に続いて唸らせられる逸品の耀きを見て取ることができる本書。

 ホームレス社会と彼らへの救済を主題としているせいか、通常の娯楽サスペンスと違って、この作品は作者による取材と追跡が描写の裏側に見え隠れしている。小説という形で世界の本当の姿を訴えると言えばアンドリュー・ヴァクスの使命感などを想起することが多いけれど、グリシャムもまた死刑制度や人種差別、陪審制度や企業悪と言ったものに対する正義感が強く、このあたりが凡百のミステリーではなく、大きな骨のある作家というイメージを作っているのだと思う。

 この作品では、そのイメージがさらに強烈であり、ある程度エンターテインメント性を殺してでもホームレスの窮状を訴えようという作者側の意図が強く見えてくる。実際にここまでホームレス社会を描いた作品というのは珍しく思うし、彼らを救うためにぎりぎりの収入で働いている、ボランティアとしか言えないような弁護士たちの姿は、非常に感動的な存在である。

 彼らの救いもゆとりもない中で、しっかりとした使命感、人間愛だけが浮き彫りにされてゆく。巨大法律事務所を相手にどこまで法律的テクニックで彼らの正義が闘い抜けるのか? 小説のツボを心得た展開は相変わらずグリシャムならではのもので、ぼくらは知らず知らず路上の弁護士たちを応援してしまう。いつもこうして主人公を応援してしまう。それがグリシャムであり、彼のヒューマニズムなのである。安っぽくないリアル・ヒューマニズムで人を感動させることほどの困難はないだろう、とぼく常々思うのだ。

(1999.12.26)
最終更新:2007年06月17日 21:15