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テスタメント






題名: テスタメント
原題: The Testament (1999)
作者: John Grisham
訳者: 白石朗
発行: 新潮社 2001.1.30 初版
価格: \2,400


 "TESTAMENT"。英会話になどに通じていない一般的日本人がすぐにすんなりとわかる英単語だろうか? TOEIC400点そこそこのぼくなどには、少なくともすぐにすんなりと飲み下せる英単語ではなかった。では、なぜその単語が特に日本語訳されずに<テスタメント>というカタカナ表記でタイトルになったのだろうか? そうした疑問を抱えながら本書に取り組む。しかし、その疑問は本書を読み進むと、非常にクリアに氷解することになる。ストーリーそのままのタイトルであるし、これを日本語訳せずに、複数の意味を持たせたまま邦題としたセンスは、結果的に納得のゆくものである。

 "TESTAMENT"とは「遺言」であり「聖書」の意でもある。骨肉の遺産争いを物語の主軸に添えながらも、遺書で名指された正当な遺産相続人は南米の奥地で布教生活にすべてを捧げるあまりにもピュアな女性であった。まさにこの世の正邪を対決させたような構成で、遺産という経済的な価値と、あまりにも宗教的に浄化された精神性との狭間で揺れるのが、南米パンタナール大湿原に送り込まれることになった、法律事務所のお荷物的存在であるアル中弁護士ネイト・オライリー。

 まさにこの設定だけで引っ張ってゆくパワーを持っているのが、グリシャム。独自のテンポはそのままに、本書では、南米大湿地帯での冒険行の下りが、通常のリーガル・サスペンスとは遠く離れた距離感をもたらしている。まるで、英国の本格冒険小説の香りに浸っているような懐かしさ。自然や天候とのストレートな闘いをグリシャムが書くなんてぼくは想像もしていなかった。そういう意味でも作家的熟成度の高い作品であるように思われる。

 少なからず厚みを増した物語の振幅の巨大さに、まるで荒天下の荒波をくぐる水夫のように酩酊させられる。全米で『ハンニバル』を抜いたベストセラーだと言うのも肯ける。巨大湿原さながらに水圧の高い一冊なのである。

(2001.04.28)