クラッシュ






題名:クラッシュ
作者:馳 星周
発行:徳間書店 2003.08.31 初版
価格:\1,600

短めの短編8篇を収めた作品集。1998年から2003年までの作品を押し込んだ形だから、その中で最近の作品と古めの作品との間に少しだけ違いが見られる。アジアン・ノワールと呼べるものは一作にとどまり、残る作品の中では女性を主人公に据えたニ作品が少しばかりおとなしめで、このあたりに既に『生誕祭』の萌芽が見られるあたり、馳読者にとっては興味深い。

 馳星周の作品は基本的にはなにを読んでも極端な違いがない。現代東京に集まる若者が都会の罠に嵌まって滅びてゆく姿。それが基調である。『不夜城』で見せたアクション・ノワールの黒い娯楽性よりも、風俗小説の色合いを増しているのが最近の馳であり、あまりにも現代的な部分が読者のニーズを掘り起こしてきたのだと思う。

 もともと馳星周は作家としてピュアに勝負してゆくというよりも、ノワール作家としての馳星周自身を演出して生き延びてゆこうというところが見られ、そのために独特のスタイルを作家自身も身に纏っているあたりが、露出度の多い昨今のミステリ文壇らしいと言えば、ほんとうに「らしい」。金髪ツンツンテンの頭にサングラスというスタイルは、若い頃から外見に非常に凝ってきた馳という男が身につけてきた対都会への武装スタイルであるのだと思う。

 そうした部分が作中の主人公たちにも当然投影されていて、女性らはブランドものに身を纏い、男たちは時計やアクセサリーや車に凝る。モノへのこだわりは、ぼくのような人間には縁遠いながらも、馳のそうした都会へのこだわりはあまりにも見慣れた最大公約数の姿であり、そこに金、欲、見得、プライド、差別、上下関係、不安、コンプレックス、その他、都会を歩く若者たちが大なり小なり身につけている安っぽさのようなものが最低限彼らの日常によりそっているかに見える。

 都会に無理をして生き延びようとするスタイリッシュから破滅へのずれそのものにノワールを見出そうとする馳の姿と、ミステリという場所に立脚するノワールとのギャップに馳という作家の苦しみがあり、それこそが馳ファンという独特の読者層を作り上げてきたのだろう。ある意味独自、ある意味必要悪、そういったところに分類したくなる小説の、これは新たな一ジャンルであるのかもしれない。

(2003.11.16)
最終更新:2007年06月17日 20:48