M(エム)





題名:M(エム)
作者:馳星周
発行:文藝春秋 1999.11.20 初版
価格:\1,524

 作中の主人公たちは皆確かにもがいている。不夜城に始まった一連のアジアもの小説の主人公たち同様に、この短編集の主人公たちは誰もが相変わらずもがいている。しかしこれはハードボイルド小説というよりは官能小説の部類に入るくらい性を題材にした短編集だから、もがいてもがいてもある種醜い。

 誰も愛せない主人公たち。わが子さえも醜く見えてしまうサラリーマンという冒頭から、ぼくは感じてしまう。馳星周はどこへゆくのか、と。

 無理やり書いている印象があるのは、なんだか花村萬月が適度な長さのどうでもいいような作品を書きなぐっていた頃と同じ感覚。作者の動機が感じられた『不夜城』と作者がもがいているこの『M』とでは、まるで読後感が違う。主人公が破滅してもなんでもそこに愛があればいい。それは自己愛でさえいいと思う。

 すべての局面を否定してしまうようなマイナスの物語群が果たして何を生むのか? 作者は果たしてどこへ行きたいのだろうか? 何を書きたいのだろうか? デビューの頃のように胸のすくバイオレンスを、あの街のエネルギィを、そしてドラマティックな名シーンを求めたい。そんな欲求が見事に足を掬われるような、面白みも何もない四篇であった。残念。

(1999.12.26)
最終更新:2007年06月17日 20:55