長恨歌 不夜城完結編





題名:長恨歌 不夜城完結編
作者:馳 星周
発行:角川書店 2004.11.30 初版
価格:\1,600



 1996年『不夜城』から、はや8年。『鎮魂歌 不夜城II』が、劉健一とはかなり別の物語であっただけに、直接的に健一のその後を語る作品に関しては、当時待ち望まれていたと思う。しかし作者は別の物語に向かって走った。もっと壮大で長い物語や、もっと違う場所での別の物語。さらには時代そのものの寵児たちが奏でる屈折した不協和音や現代を蝕む欲望という名の狂気の世界へ。

 あの恐ろしく計算高い中国黒社会が支配する歌舞伎町に関しては足を踏み入れることなく、作者は別の世界にいろいろな足音を残してきた。少しずつ変奏曲を奏でてはきたものの、そこには『不夜城』シリーズの持つスピーディで緊張の途切れないアクションとしてのタイトなイメージがなかったように思う。

 『不夜城』が書かれた当時作者が最も影響を受けていた作家がおそらくエルロイであり、最も影を落としていた作品はおそらく『ホワイト・ジャズ』であった。それらをきっとアンドリュー・ヴァクスの緻密な慎重さで補強して、怯えつつ命からがら突破してゆこうとする主人公像を作り上げた。

 八年後の今、『不夜城』のシリーズ三作目にして完結編がこうして世に出た。いろいろなものがたった八年の間に変わってしまったこの時代に。

 歌舞伎町における中華民族のシェアも変わり、かつての台湾マフィアは離散し、支配権は福健の流氓や中国東北部出身者へと移っていた。健一の支配は終わり、彼はただの情報屋として知られる存在であった。

 新しい主人公を据えている。どこか健一に似た存在でありながら、決定的な違いを求めつつどんどん暗闇の方向に引きずり込まれて抜き差しならなくなってゆく。パターンはパターンだが、このシリーズならではの緻密な伏線と謎の厚みの上に、活劇シーンが重ねられてゆく。映画化を想定したかのようなアクションシーンが織り成す歌舞伎町での血と炎、ふたたび。

 全体像としてはぼくは『地獄の黙示録』の歌舞伎町版であるように見えた。コンラッドの『闇の奥へ』は未読だが、狂気の王国を築き上げた上官を求めて彷徨う主人公の姿は、そのまま健一の築き上げた王国へ旅する若者の彷徨に重なってゆくように思えた。その意味では最後の最後に関しては、ぼくは殺される側と殺す側が逆であって欲しかったと思う。作者の意図はわかるけれども、他の作品とはきっぱりと区切ってしまい、神話としてこの物語を完了させていただくには、そうであって欲しかった。

 八年前のエルロイの影響をもろに受けていた文体は影をひそめ、文章がおとなしくなった。書き慣れたということかもしれない。読みやすさは増したし、随分とわかりやすくなった。他の作家は読まない馳星周ファンが存在するらしい。ぼくはそうしたファンではないけれども、この作品でまたそうした独自のファンが増えることを切に望みたい。

(2004.12.26)