鎮魂歌 不夜城 II





題名:鎮魂歌 不夜城 II
作者:馳星周
発行:角川書店 1997.8.31 初版
価格:\1,500

 香港フィルム・ノワールを思わせる銃撃の新宿物語パート2と言ったところで、前作の緊張を維持させてのサイド・ストーリー作り二本立てというのは素晴らしい構成だし、素晴らしい維持力だと思う。できることならこのレベルをずっと長いこと最低でも維持していって欲しいし、さらに上をめざして欲しい。今、最も期待度の高い作家の一人であることはもう間違いない。

 アクション小説としては、サスペンスと言い、バイオレンスと言い、クライマックスへの高まる緊張度は日本の小説の中では最上位に位置するほどであると断言したい。だからそれだけで日本の小説界をぶっち切っているとは思う。

 しかし、ぼくが思うに、練りあげられ、懲りに凝ったプロットの骨組みはともかく、これに肉付けされた文章に遊びがなさ過ぎる傾向、とにかくストーリーを急ぐ傾向というのは、少しもったいない気がするのである。せっかくのこれだけの物語なのだから、もう少し皮下脂肪を付けてあげてもいいような気がする。贅肉の多い三流小説では困るけれど、プラス・アルファの何か遊びのようなもの、プロットを文章に書き変えるときに脱線してゆく要素のようなもの、を作者に期待したいのである。

 そして、シリーズ外で、別のハードボイルドも創作して欲しいところ。

 繰り返すけれど、この小説のプロット、構成ともに素晴らしいと思う。視点を変えて二人の男たちが命がけの激走をしてゆく様は、かつての東映の名作『仁義なき戦い 広島死闘編』を思い出させましたよ、ほんと。

 強いて言えば、境遇や年齢いろいろなものが違うのに、主人公扱いされる人々がどれもこれも読んでいるうちに似通って見えてくる点、キャラクターの行動の個性に少し不足という感じがして、ちょいと気になりました。しかしエルロイの主人公なども似たり寄ったりだから、これは読者の側の贅沢というところか。

(1997.10.19)
最終更新:2007年06月17日 18:49