不夜城





題名:不夜城
作者:馳星周
発行:角川書店 1996.08.31 初版 初版
価格:\1,500

 本書が出た瞬間、カバーの作者紹介で、どうも思い当たる節があり、すぐに読み始める。一夜にてほぼ読み終えて、間違いなく、この作者が、自分の思い当たった人物であることを確信した。

 周りにはいろいろな人がいて創作に関っている。小説を書こうとしている人、書いて何冊かの本を出している人、買けばその分だけ売れる人、買いても売れなかったり編集に突き返されたりしている人、書けば売れそうなのに書けなかったり書かなかったりする人、書きたいことではなく不本意な作品を生活のために書かされている人。

 ぼくの知っている『不夜城』の作者は、もともとがもの書きなので、なかなかこうしてきちんとした小説を時間をやりくりして書くことができなかったと思う。とにかくフリーの職業というのは、生活のためにおいそれとは仕事を断れないもので、彼もその類で非常にいつも忙しくしていた。FADVへのアクセスが間遠になったのも、元々はその忙しさが原因。いや、ぼくには知るよしもない私生活上のあれこれもあったろうと思う。しかし、ぼくの知っている彼は、本当にいつも忙しくしていた。

 そんな中でなんとかやりくりをして酒を飲んだが、新宿以外だとなかなか出てきてはくれなかった。それほど彼は新宿を根城にしていたし、おそらく今もそうだと思う。彼はいわば新宿の裏にも少なからず通じたところがある。今度の小説のように中国マフィアの裏社会というほどの「裏側」ではないにせよ、彼の青春は新宿で大きく折れ曲がっていったみたいな節がある。

 その彼にとっては非常に重要な拠点である新宿を思い切り題材にして、このごった煮の国際都市を描く。思えば「いつかはほんもののハードボイルドで作家になってみたい」とことあるごとに呻いていた彼に書ける最良の題材は新宿でしかなかったのかもしれない。

 さてこの小説にはその新宿の闇がいっぱいに詰まっている。ぼくが作者から思い切り薦められた作品の数々がこの小説の彼方に時折浮かび上がる。佐々木譲『真夜中の遠い彼方』、梁石日『断層海流』、風間一輝『男たちは北へ』、ヴァクス『ブルー・ベル』、花村萬月『ブルース』。『骨折』とパーカーの『初秋』を比較して、フランシスの凄味を聞かせてくれたのも彼であった。その大半の会話を、ぼくは連日のRTで行ったものだった。

 彼の傾向というのが、この作品に思い切り出ている。とても客観的には読めない。それなのに、面白い。いいかげんな外観からは想像もつかないような緻密なプロットが練られているのは、彼が以前からそう心掛けているといった手法そのものである。プロットがなければ書けないタイプだと言っていた。いい作品を作ってくれたと思う。

 聞くところによると『このミス』では今年のトップ作品らしいではないか。かくいう自分もトップに入れたのだけど、けっこう業界の中で馴らした彼のことだから、今の作品そのものの評価+今後への期待値大であるように思う。すさまじい傑作である谷甲州『神々の座を越えて』が、『このミス』締め切りのゆとりなく発刊されたのも幸運だったかも知れない。だから、ぼくの中では『不夜城』は今年の2位である。それでも、いい作品の並んだ今年の国産ミステリー界で、この順位につけられる実力というのは、ぼくは並みではないように思っている。

 日本小説界の確実に一つのエポックとなる作品である。ヴァクスに似すぎた嫌いはあるけれど、こうなったら和製ヴァクスをめざしてくれ。ヴァクスのような社会的な使命感なぞ金輪際求めていないから、とことん破壊してくれればいいと思うのだ。

(1996.12.01)