OUT







題名:OUT
作者:桐野夏生
発行:講談社 1997.07.15 初版
価格:\2,000



 四十代の普通の主婦をしている日本の女性でありながら、最もかっこよく描かれたヒロイン大賞というようなものがあるならば、間違いなく『OUT』のヒロイン雅子は、その最優秀ヒロイン大賞を獲得することができるだろう。

 最近に限らず女性作家は女性の自立した姿を小説で表現するというのが、当然至極になっている。タフな女私立探偵ものはぼくの場合あんまり読んでいないのだが、P・コーンウェルの女検屍官シリーズのケイ・スカーペッタなどは、旧来の冒険小説に出てくるような「可憐で男まさり」なんていう姿とは程遠く、死体をけろりと捌いてシニカルに判断できるような性格のきついキャリア・レディであり、それなりに印象の強いキャラクターと言えるだろう。いやな女だなあと思いつつも、どこかで中年のオバサンにしてはかっこいいぞ、とのイメージが残る。要するにどこかで男たちも思うような「いい女」なのだ。

 欧米に増して旧いしきたりが残る日本では、そうした意味でのかっこいい大人の「いい女」というのは、さらに生まれにくい土壌にあったと言えるだろう。そこで、この『OUT』なのである。あまり言うとネタバレになるのだが、ヒロインたちが死体と強烈に関わってゆくシーン、死体を客観的に距離を置いて見るその視点などは、前述のケイ・スカーペッタばりであるし、ケイよりもすごいなと思われるのは、周りの女性たちをヒロインが有無を言わさず従えてしまう点だろう。日本女性は欧米の女性たちよりはおとなしいかもしれないものの、様々な年齢の女性たちを、いつのまにか従えて、それなりにリーダーの風格を持ってしまう女性、というこの本のそれなりのヒロイン・キャラクターの完成度には、一目置くべきところがあるだろう。

 最初こそ、四人の女性パートタイマーが、社会の弱者的立場からそれぞれにいかに闘うのか、といったような『女たちのジハード』……と読める小説の出だしであるのだけど、次第に四人の性格の強弱のレベルがはっきりと描き分けられてゆくあたり、その強弱の振幅の大きさなどは、篠田節子とはほんの少し違っている。そうして読んでいるうちに、展開は『エイリアン』シリーズみたいな、闘う強い女の物語にいつの間にか質を変えてきているのだ。

 警察やマスコミからの追求がやけに甘く感じられ、ややお伽噺めいた現実感の伴わない社会からの反応といったところが少々鼻につくのだが、ふとした甘さに背を向けて、厳しい方の道だけを辿ろうとするヒロインの、これまでの生活への決別の意志などは、男でも見習いたいほどの、しかし男ではここまでクールになれないぞ、と言いたいほどの、女ならではのタフさこそが、最後まで素晴らしく活写されているように思う。

 『このミス』で取り上げられなければ読むこともなかった作家だが、それなりの決意の込められた作品というのは、やはりそれなりにきちんと評価されるものなのではないだろうか。ホラー的期待で読み始めたのだが、むしろ違った収穫があった一冊となった。

(1998.01.04)
最終更新:2007年06月17日 18:36