残虐記


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題名:残虐記
作者:桐野夏生
発行:新潮社 2004.02.25 初版
価格:\1,400



 世界は実験性に満ちている。人間が考えたおよそあらゆること以外の何かが、いつも決まって起こってゆく。事件の類似性が多様性に変質してゆく時代。世界の人間構成が変容して、さらに予測を難しくしている時代。

 そんな現実を実験室のように書き続ける作家が最近の桐野夏生である。『グロテスク』では東電OL事件を、本書では新潟の女性監禁事件を素材にしておりながら、事件そのものをさらにデフォルメし、桐野世界とも呼べる不安定性の中に投じてゆく。女性小説という枠を崩さずにありながら、ぼこりと空いた穴ぼこの底を覗き込むような怖さを見せる。

 世界の崩壊を経験する女たち。あることを境に日常がそうでないものにすり変わる。そうしたことを描いて桐野夏生は実に上手い。そもそもが『OUT』だったろう。継いで『柔らかな頬』による、約束に縛られない良い意味での既定のミステリへの裏切り。

 最近の『グロテスク』や本書『残虐記』では、さらに人間の根底にある破壊力、自己喪失といった、空しくも被虐的な絵図を惜しげもなく晒してみせる暗黒性たるや、凄絶を感じさせるまでに至る気配。

 本書は手紙に挟まれた作家の未発表の私小説という体裁を取りつつ、監禁をめぐっての作家の生涯を抉ってゆく。一人称の魔術的な要素に、男たちの手紙文がアクセントとなる多重構造の小説。虚構と現実とが入り乱れる書き方を敢えて行い、たった一年だが得意この上ない経験である監禁によって破壊された人間の倒立した姿が、異常で、その世界はやけに薄暗い。

 この手のネガティブな要素を抉り出して、なおかつタフに生き延びてゆく女性的な生命力を書かせて右に出る人は他にいないだろう。安定した筆致で、小品ながらもきっちり締めてみせる現在の力量をまずは讃えたい。

(2004.08.08)