紅色の夢


(↑アマゾンでの注文はこちら)

作者:花村萬月
発行:徳間書店 1993.12.31 初版
価格:\1,500(本体\1,456)

 今度は何と、デビュー前に書いた 50 枚の短編を加筆して長編化した作品だという。とすると『ゴッド・ブレイス物語』の前かあ、ということで多少興味を持って 読み始めのだが、まあこんなものでしょう。

 当然昔書かれた部分と今書かれた部分というのがごっちゃになっていて、それらしきバランスの欠如はあるんだけど、もともと筆を奔放に駆使する作家だから、そんなものはぼくは許せる。この辺り許せない人というのは、もう花村ワールドには合わないって思った方がいいと思う。

 で、なにを感じたかって言うと「村上春樹」を読んでいるみたいな感覚なのだ。つまり純文学のまあ読んでいて楽しい方の作家……という感じ。ここには、『眠り猫』や『なで肩の狐』や『ブルース』や『真夜中の犬』で感じられるストーリーにもたれた娯楽性というのが、とことん欠如している。『重金属青年団』なんかと通じるけど、あそこまで過激じゃないお話であるみたいだ。

 そして、この本を読んで思ったのは、ああ、萬月さんという人は、やはりハードボイルド作家じゃないのだなあ、ということ。本人もホームドラマ作家だななどと嘯いているけれど、これはまさしくホームドラマなのである。

 一見書き荒らされた小説に見えるけど、本人はあとがきで筆の荒れを抑えるため一日に 10枚しか書かないと言うBそれだけの丁寧さはよく見れば確かにあると思う。ナチュラルな伏線……と言っていいいのかどうかわからないが、何度も繰り返される素材の輪唱を見ていると、小説としての凄みという最低線は、彼の場合変わらない。

 ただ FADV なんかに生息しているぼくのような人種は、できるなら FADV のジャンルで活躍して欲しいのである。当然読者のわがままだが、こんなわがままがおいそれと適えられるわけもないだろうなあ、この人にかかっちゃ。それでいいと、最近では思うようになっている。

 なお、話題性という意味ではあとがきがすごいですよ。萬ちゃんってホモっ気あるのかな? それとも冗談かな? そういう部分はさておき、読者の、明記されてはいないがおそらく日本冒険小説協会での「量産体制」なる批判に怒りをぶつけて答えている。アマチュアの感想に怒るくらいなら作品で応えろよ、と思うが、考えてみたら、こういう風に感情を脱線する人でなければ、彼の作品は書けそうもないんだ、ということに思い当たった。

(1993/12/25)
最終更新:2006年11月23日 20:36