昏い部屋




題名:昏い部屋
原題:The Dark Room (1995)
作者:Minette Walters
訳者:成川裕子
発行:東京創元社 1999.9.30 初版
価格:\2,600


 今は「ミステリの新女王」などと呼ばれているのがこのミネット・ウォルターズ。UKではあまりサイコ・ミステリー系の怖い殺人鬼というのは本の世界では聞かないのだけれど(切り裂きジャックは除く)、この作家に限ってはいつも何故か殺人そのものが惨たらしく、ある意味芸術的で、そして怖い。

 いずれにせよ『女彫刻家』の魅力に取り憑かれて以来、この作家は読むことにしている。少し本格の色彩があってあまり趣味でないジャンルとは言え、心理サスペンスの味つけに関してだけはいつも極上で、女流作家らしい緻密で丹念な小説作りが、味わい深いのだ。

 この作品もそういった緻密に練り上げられた世界へとぐいぐい引き込まれるような心理ミステリー。頭に怪我を負って記憶喪失のまま入院中のヒロインをめぐるいくつもの疑惑。凄惨な死体を二つもたらした事件の真相は一体何なのか。記憶喪失ということによって自分自身をすら疑わねばならないことの苦痛が重低音となって作中に響き渡る。

 暗い事件の渦中でありながら、とても多くの登場人物たちがそれぞれ生き生きと存在感があって、なかなかに複雑な情動のぶつかり合いを見せてくれる。実力派女流作家の翻訳第4作。未読のデビュー作『氷の家』にもそろそろ手をつけるとしようか。

(2000.11.04)
最終更新:2007年06月17日 15:40