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囁く谺




題名:囁く谺
原題:The Echo (1997)
作者:Minette Walters
訳者:成川裕子
発行:創元推理文庫 2002.4.26 初版
価格:\1,100


 この人の本はたいてい読んでいる。英国女流作家で「ミステリーの新女王」と呼ばれていたら、普通はぼくはそれだけで読まないのだが、版元がどう売り出そうと、所詮、初代ミステリーの女王アガサ・クリスティとは全然違うリーグに所属する作家であることは、誰が読んだって一目瞭然だろう。だから時には、出版社というものは適正な読者を逃がすような反広告をしてしまうこともあるということなのだ。

 女流ミステリー作家であることに間違いはないが、プロットの面白さもさりながら、いつもこの作家の重要な要素であるのは犯罪現場の特異さ、凄惨さということであった。のっけから異様な犯罪現場に凄惨な死体が転がっており、それをいわゆるリアルに捜査するヒーロー、ヒロインたちが事件を自分の中に如何に取り込み、変わってゆくかの物語であったと思う。だから事件は、新しい人との、新しい人生との出会いとして機能することが多い。事件を解決するだけの謎重視の小説ではなく、常に悩める人間たちの葛藤のドラマであるところが、このミネット・ウォルターズの神髄であると言えよう。

 さて本書はそれらの予測をまず最初に裏切るところからスタートする。ある女性建築家のガレージで発見されたホームレスの餓死死体で始まる物語。犯罪が存在するのかどうかもわからない世界への取材が主人公である記者によって始まる。

 一方では二人の違う時代の失踪事件概要が作中にインサートされる。他にも鑑定書、インタビュー、記事その他公式書類などが、作中にインサートされる。地点も時代もかなり隔たりのある材料が読者に意味ありげに提示されてゆくが、それはあくまでジグソーパズルのピースでしかない。どこかスケールの大きな話であるように思われる。インタビューと資料によって、二人の過去の男と一人の女の中に生じたものが明らかになってゆく。すべてが響き合ってゆく……原題 "The Echo" のように。

 前衛的な手法。バラバラなピース。予測不能の真実。時にはデリケートに、時には大胆に明かされてゆく壮大な時間の話。これまでのある程度パターン化されたウォルターズ作品とはがらりと趣向を変えた傑作。

 ついでに言えば、この作家にして初めての文庫オリジナルでの登場というのも庶民には嬉しいところ。

(2002.11.10)