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蛇の形




題名:蛇の形
原題:The Shape of Snekes (2000)
作者:ミネット・ウォルターズ Minette Walters
訳者:成川裕子
発行:創元推理文庫 2004.07.30 初版
価格:\1,200


 すべて当たり、これまで全く外れ無しの作家だからこそ、英国で<ミステリーの新女王>と呼ばれているらしい事実もわからないではない。でも<ミステリーの女王>がアガサ・クリスティだとすれば、彼女とミネット・ウォルターズの違いは気が遠くなるほどに果てしないものだと言える。

 英国で生まれたトリック主体のミステリーに対し、人間ドラマ主体のハードボイルドはとんでもなく地味な存在であり、あまりにも人間の成熟度を問い過ぎるジャンルであるとも言えた。小学生でも楽しむことのできるトリックと、大人の哀歓とを同列のミステリーという単一ジャンルで括ることには相当の無理があった。

 その意味においてはミネット・ウォルターズは<ミステリーの新女王>でも何でもないと言える。彼女のかもし出す作品にはもちろんトリックは存在するし、本書ではフーダニットだって存在する。でも、子供が読んで楽しめるような素材はどこにも存在しないのだ。

 冒頭のエピグラフで既に触れられている主題はあまりにも奇怪だ。一つはクー・クラックス・クランの語源が何であるのかであった。それだけで白人とそれ以外の有色人種といった人類的未解決テーマがこの小説の脊椎である構造が類推される。

 もう一つはチック症候群というものの発症の類別である。チックというのは俗に頬が突っ張って動く症状のこと、とぼくは思っていた。アイヒマン裁判では、ユダヤ人の大量虐殺に関わったナチの幹部が証言台でチックを見せていた現象に世界が注目したものだった。だが、チックは音声的な発症の仕方を見せる。汚い言葉を意思とは関係なく、人に浴びせてしまうというものだ。チックは途端に身近なものに迫り来る。

 そうした主題をベースにして、何ら寄り道をすることなく非常にストレートにある黒人女の死に対し、二十年という時を隔てて、ヒロインが猛追する物語、それが本書だ。前作『囁く谺』で使われた三次元的手法は本書でも駆使される。素晴らしいリズム、およびテンポだと思う。ミステリーの新女王なのではなく、このミネット・ウォルターズは英国ミステリー界にとって紛れもないミステリーの真正女王なのではないかと勘繰りたくなる。

 さほどの才気であり、さほどの密度が常にあるということだ。嘘だと思うなら、何でもいいから、一冊読んでみて戴きたい。こういう言い方はなかなか並みの作家相手ではし難いものなのだ。

(2004/09/26)