証拠死体




題名:証拠死体
原題:BODY OF EVIDENCE ,(1991)
作者:パトリシア・コーンウェル PATRICIA CORNWELL
訳者:相原真理子
発行:講談社文庫 1992.7.15 初版 1992.9.10 第4刷
価格:\680(本体\660)


 『検屍官』シリーズは相変わらず売れ行き好調だし、 講談社の文庫情報誌「IN★POCKET」1 月号では、新刊『遺留品』の発売に合わせて、「P・コーンウェルの世界」というのを特集していたりする。大抵の書店で平積みされている辺り、販売戦略大成功と誉めてあげたいところだが、正直言ってここまでは「それほどのシリーズかぁ?」というのが正直な読後感。 この前に D・ローンの『音の手がかり』を読んだせいもあるけど、異常に読み進まない作品、というのが、このシリーズへの印象である。

 では、それほどストーリーを妨げているのは何か? というと、ケイの主張多きイラついたような会話であるように思えたし、意味なき生活描写の (まあ、こういうところで女性らしさを表現しているのだろうとは、重々承知しつつもである) 冗長さであるように感じたのである。

 前作でも女性読者はほぼ作品を楽しめたみたいだけど、男性読者には酷評されがちであった点など併せると、やはり単純に受けのいい娯楽小説であるとはとても評し難いのである。やはり冗長さと感じる部分は、こちらにとっては大変退屈な障害物であり、女性検屍官の自立した女性としての立場開陳のシーンにしても、周囲に対しあまりに冷徹過ぎ、小癪と感じる場面が多い。もっとも、それこそが女性検屍官の視線であるのだと言われればうなずけもするが、それだってぼくらの感情移入できないどちらかと言えば嫌いな部分の方が多い主人公では、作品そのものは、やっぱり抵抗だらけの非娯楽小説になってしまうわけだ。

 サスペンスの方はまあまあでありながらも、やはり集中力のない小説であると思うし、結末に至っては肩透かしを食らったような気分であった。やはりこの小説、描写そのものは部分部分でうまいと思えるけど、まだ何だかんだ模索している途上の作品だったのではないのかなあ?・・・・ という意味で、一見完成されて見える本書に、ぼくの場合は敢えて辛口の点を与えておきたい。

(1993.02.27)
最終更新:2007年06月17日 15:17