死体農場




題名:死体農場
原題:The Body Farm (1994)
作者:Patricia Cornwell
訳者:相原真理子
発行:講談社文庫 1994.12.15 初版
価格:\760(本体\738)


 前作『真犯人』で逃げ延びた殺人犯の、新たな爪痕らしきものを追って、ケイのチームがノースカロタイナ州ブラックマウンテンへ。リッチモンドから外に飛び出した検屍官シリーズの新展開といったところか。

 すっかりシリーズとして定着した感のあるこの5作目。ケイの周囲の人物たちがことごとく変容を見せる重要な一冊であった。そして、いろいろな意味で一冊の完結された物語とは言い得なくなってきた最近の数作は、またしても次回作への期待で終わってゆく。そういう意味で、「シリーズとして定着」と言ったのだ。ますます途中から読んでいいという本ではなくなってきたような気がする。逆にシリーズ読者にはそれなりの愉しみが深まってきた。

 今回のタイトルの意味自体は作中で出現するある施設のことで、この存在自体はアメリカ的であり、欧米文明の色彩豊かな、実にショッキングな場所なのであるが、これはこれで検屍官シリーズのある種の特徴と言えなくもない合理的精神・科学的捜査につながるものでもある。そして毎作のように飛び出す物理的・科学的痕跡とその分析方法。姪のルーシィを軸に展開する新たなコンピュータ関連の話題……と、盛沢山の個性を持ち始めて、楽しい。

 ケイ自体は、相変わらず自分の感情に翻弄されていて、それがルーシィやマリーノとの葛藤感を深めており、ぼくはその辺りの書き方が非常に楽しめるようになってきている。これもシリーズが冊数を数えることによって積み上げれらてゆく、読者と作品世界との愛着ゆえだと思う。

 ということで素晴らしいシリーズになってきたこの5作目、次の作品への過渡的作品として非常に意義深いものでありました。5作目の未解決の謎は6作目に継がれてゆきすべて解決を見るらしい。こういうことは訳者のあとがきに書かれているんだけど、くれぐれもあとがきを先に読まない方がいい。この訳者は翻訳は巧いけど、あとがきに関しては、望まれてもいないストーリーのダイジェストなどを事細かにやってしまうので、作品そのものへの興趣が非常に削がれるのである。本当、こういう感性だけは疑ってしまうのだよなあ。

(1994.12.21)
最終更新:2007年06月17日 15:11