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真犯人




題名:真犯人
原題:CRUEL AND UNUSUAL (1993)
作者:PATRICIA CORNWELL
訳者:相原真理子
発行:講談社文庫 1993.12.15 初版


 シリーズって作家にとって書きやすいものなのだろうか、それとも前作の荷物を確実に引きずって行かねばならないだけにつらいところのものなのだろうか? ぼくが勝手に類推するには、初作が一番産みの苦しみを味わっているのではないか、と思う。もちろん作家によってはシリーズ第一作が一番無責任にフリーに書けるよ、とでも応えるかもしれない。ましてや、それがシリーズになんかなる予定がなかった作品であれば、なおさらであると思う。

 例えばパトリシア・コーンウェルの場合は、シリーズを書こうと意図したにせよしないにせよ、第一作がデビュー作であるのだから、これの売れ行き次第で二作目が誕生すべきか否かは当時は全く不明だったはずである。そういう意味で、話題になった例の一作目は、賛否両論が激しかったにも関わらず、ともかくも現実味のある特殊な主人公を据えて、売れることは売れたし、かなりの読者に読まれたと思う。

 自分自身彼女の1作目はひどく気に入らなかったにも関わらず、気になる点があって、さらにシリーズの2作目が出た時にも当分追いかけてみようと言う気持ちが強かったわけである。その追いかけがようやく実になってくれたのが、自分にとっては3作目であった。安定した勢いでずっと書かれているのであろうこのシリーズの、とうとう4作目までがあっという間に、日本語に翻訳され、日本のコーンウェル読者の関心をあっという間に掴んだという感があった。

 本書を読んで感じたのは、面白い時間の流れ方を描く作家だなということ。克明な生活描写が各作品を貫いている割りに、作品の合間の「書かれていない」時期が異様に長く、この辺りが空白としての重い余韻となって新作に横たわっている辺り、相当の構成なのかもしれない。ましてや、毎度のように事件が主体ではなく、犯人が主体なのでもなく、事件を介しての一握りのキャラクターたちの葛藤のみがいつも常に描かれてゆくばかりだし、何とまあ事件は抛り出しちゃうっていう作品でもあるのだから、この作品の気味の悪いほどのリアルさは、もうこの作者特有の武器なのだと考えてもいいのではないだろうか?

 姪のルイーズは、もはやコンピュータ・オタクもいいところで、慢性的な反抗期ででもあるかのように叔母のケイに反抗する。ケイは彼女に対する苛立ちを自覚するとともに、彼女が愛しくって会いたくってたまらなくなったりもする。この辺りの女性特有の感情の柔らかさみたいなものは、女性作家の本でしか読めないような気がするだけに、もはやこの作家はぼくにとっては貴重だ。

 残虐とハイテクという硬質な事件のドラマを縦軸にして、実はとても柔らかくてハードボイルドとは全く逆を向いたホームドラマが、このシリーズであるのだ、と ぼくは確信してしまったのである。

(1994.01.07)