審問





題名:審問 上/下
原題:The LAst Precinct(2000)
作者:Patoricia D. Cornwell
訳者:相原真理子
発行:講談社文庫 2000.12.15 初版
価格:各\629

 外傷後ストレス症候群に曝されるケイ・スカーぺッタ。いつもに輪をかけて、さらにさらにストレスを重ねてゆく試練の日々。元はと言えばシリーズ前作『警告』のクライマックス、異形のサイコパスに襲われる大団円の直後にスタート地点を持って来たという本作。しかも、それ以前の昔々の登場人物、今は死者となった者たちの真実がどんどん、玉ねぎの皮を剥くように二十三重の謎・嘘・疑惑を剥がされてゆき、徐々にあらわになってゆくというのは、今さらのどんでん返しという意味でなかなかに楽しい。

 もっとも、ここまで過去の人物を総動員させつつ、より巨大な敵の存在を匂わせて、なおかつ真犯人は一人や二人ではなく、組織立っているという設定になってしまうのであれば、今後の後始末を考えただけでぼくは頭が痛くなってゆく。

 田舎警察の関係者に過ぎなかった登場人物たちが、どれも抜きんでた才能を持っていて、環境的にも資金的にも恵まれていて、友達にも経験にも恵まれていて、周囲を固めるのは有能で美貌を兼ね備えた天才肌のキャリアな美女たちばかり、というのは、いくらなんでも鼻について来た。87分署の刑事たちがくすんで見えてくるほどの有能ぶりが不自然と言えば不自然ではある。

 でも、まあそうした環境に超絶的に恵まれていながらも、神経の疲弊するような話を娯しむというのが、もはやこのシリーズの売りでもあり、アメリカ的と言えばアメリカ的なヒステリックである気がする。すっきりとスタートしないし、すっきりとクロージングしないストーリーでありながら、ページ数だけはたっぷりと用意された本作。シリーズ当初の頃の一話完結形態を取れなくなって来て、話がどんどん拡大しているのが懸念されるし、こんなに広げてしまった大風呂敷にどう落とし前をつけるのか気になるし、楽しみである。

 何せ対するはインターポールが総出で捜査しても掴まらないシャンドン・ファミリーという闇のコネクション。こうなると一検屍官では解決のしようもなくなるし、事件の質は変わり、屍体の不気味さはなんだか些少な物事のようになってしまうという気がする。今回の話では屍体という屍体が物語の軸に絡んでくるために、ケイのいる解剖室にどんどんヒントが向こうからやってくるという感覚で、それなりに検屍官としての職業的面白さをミステリーの中で楽しめはしたのだけれども。

 ただし愛だとか、人間関係だとかは、相変わらずよくわからない。マリーノのように弱さをいっぱい持った男が登場すると、だからぼくは何故かほっとする。かなりの悩みを抱え込んでいる、デリケートで優しいオヤジぶりがあいもかわらず何とも言えぬ魅力であり続けているのだ。

(2001.06.28)