インヴィジブル・モンスタ-ズ




題名:インヴィジブル・モンスターズ
原題:Invisible Monsters (1999)
作者:チャック・パラニューク Chack Palahnuik
訳者:池田真紀子
発行:早川書房 2003.0531 初版
価格:\2000


 倒錯と眩暈と疾走感でたっぷりと読みごたえのある、まことに凄まじい小説が登場してきた。

 ページを開いた途端、血だまり。そして、こちらを向いたライフルの銃口。階段を降りてくる美女の向こうに広がる炎。圧倒的なスタートアップから、散乱した過去を集める旅へと読者は引きずられる。

 物語の順序が一見ばらばらで、錯乱している主人公の深層心理を覗いているかのようだ。美女でモデルだったヒロインは、運転中に銃撃を食らい、顎の骨をカササギに食べられ、顔と声を失ってしまう。彼女を撃ったのは誰なのか? 

 彼女の両親は死んだ兄シェーンの亡霊と暮らし、彼女の親友は彼女の恋人と衣装を奪う。謎の美女ブランディ、運転手のセスと共にメルセデスを駆る旅はどこに続くのか。カナダ国境を越え、ラスベガスへ、そして南へ。どこでもない場所へ。

 この作品に登場する人物たち。誰もが狂っている。性も年齢も曖昧で、正常と狂気の境目は見え難い。顔を失って見えないモンスターなのに、なぜタイトルが複数形なのかずっとぼくは気になってしまう。誰もが見えないモンスターなのだろうか? 見た通りのものではないのだろうか? 

 人間の何が、彼女を銃撃させることになったのか、人間の何が一体火を放ち、血だまりを作ったのだろうか? 人間の何が自分を破壊しようとしているのだろうか。この本に描かれたものはそういった不可解な衝動たちである。

 破片。そう言ってもいいような文節のちらばり。イメージのフラッシュバック。

 物語をくれ。
 フラッシュ
 衝動の真相をくれ。
 フラッシュ。


 すべての破片が徐々にめくれ上がり、その都度、あまりの驚愕に声を挙げそうになる。徐々に衝動が何であったか、その真相が、過去が、正体が明らかになる。すべてが明らかになるとき、銃口が火を噴きすべてが燃え上がる。人間の限りなき悲痛さと究極の嫉妬が火花を散らしてゆく。単純な愛を求めていただけだというのに……。

(2003.07.02)