サバイバー






題名:サバイバー
原題:Survivor (1999)
作者:チャック・パラニューク Chack Palahnuik
訳者:池田真紀子
発行:早川書房 2001.1.31 初版
価格:\1,900

 ある意味、難物である。厄介なしろものだと言ってもいい。何せ、最初のページが324ページで始まる。以下ページを繰るにつれ、323、322、321……。何せ最初の章が47に始まる。以下、46、45、44……。最後のページは無論1ぺージだ。こういう具合に、パラニュークはまたもやってくれる。

 パラニュークのこれまでの3作品すべてが、衝撃の結末からスタートしている。何とも予断の許さない状況を読者に突きつけておいて、そこから物語は、思いもかけぬ方向へとねじ曲がってゆくのだ。本書も、誰もいない旅客機、四つのエンジンがすべてフレームアウトして、ひたすら地上への激突を待つばかりの、操縦士を失った旅客機内で、主人公はボイスレコーダに向けて語り出す。ページを逆に辿りながら……。パラニュークはこうしてやらかしてくれる作家なのである。

 どの作品にも共通しているように、本書もサブリミナル効果抜群の、悪夢的フレーズを散りばめた、リフレイン。ディテールの反復と、イメージの横溢。難しい言葉によってではなく、具体性のあるものによる錯乱の中で、読書という行為がたまらなく難物になってゆくと同時に、吸い込まれるようなめくるめく快楽が沸き起こってゆく。

 いつも破壊的な物語の行方は今回は超過劇カルト教団。主人公は集団自殺を遂げた後の生き残りの生き残り。プログラミングされた人生と、スケジュールされた予定。自分探しの旅の伴侶は、生存の可能性を秘めた双子の兄と、何でも知ってしまっている美女。そして名前のないケースワーカーであり、エージェントだ。世界の仕組みに組み込まれて狂奔する主人公と、その地獄の旅程。

 作品ごとに違ったきらめきを見せる狂気。集合と離散を繰り返すイメージのステンドグラス。万華鏡のごとき言葉の暴力性。夢魔のような感覚の奔流。言葉の洪水に窒息しそうだ。

 他のニ作に比べると、期待しただけの逆転性が得られていない部分、終焉に向かう動きのテンポが途中経過に比べて非常にあっけない印象があり、このあたりはぼくの場合減点。しかし、ロードムービーのごとく、移送されるモデルハウスに住んで移り行く三人、あるいはテンダー・ブランソン全国要注意廃棄物衛生埋立施設の二人といった描写に関しては、忘れがたい強烈な印象がありそうだ。

 美しくも危険な言葉たちに操られて、旅客機ボーイング747は太陽を目指す。ど派手なエネルギーを秘めた高圧の一冊!

(2004.02.29)
最終更新:2007年06月17日 01:57