ファイト・クラブ




題名:ファイト・クラブ
原題:Fight Club (1996)
作者:チャック・パラニューク Chack Palahnuik
訳者:池田真紀子
発行:早川書房 1999.2.15 初版
価格:\1,600


 ウォルター・ヒルがまだ駆け出しで、少しばかりアナクロでシンプルな作品作りにばかりこだわっていた頃、あるいは彼自身、まだサム・ペキンパーの死を弔い切れていなかったかと思われる頃の映画『ストリートファイター』は、コバーン&ブロンソンというこれまたアナクロ空気を醸し出すにはぴったりの風貌の俳優二人を据えて、夜の影から影へと移動し繰り広げられるストリート・ファイトというアメリカの文化に焦点を当てた作品であった。都会から出てくる膿みのような貧困と不足感とがこうした夜のガレージでのファイトにカタルシスを求めてゆくのかもしれない。

 そんな原風景から十数年後。チャック・パラニュークという作家は、全米の地下で繰り広げられるファイト・クラブというシステムを、少しカルト的風景として再現してみせた。それも、ウォルター・ヒルという映画作家とは違ったところで、デイヴィッド・フィンチャーに繋げるようなかたちで。ブラ・ピ&エドワード・ノートンという現在の俳優たちにまかせ……(この原作を読むと、それ、ありなのか? というのが第一の疑問になるはずなのだが……もちろん俳優たちのせいではなく、プロットのせいで)。

 『インヴィジブル・モンスターズ』以上に、ぶっ飛んだ印象のデビュー作が本書。だが、タッチは独特の共有物でいっぱいだ。破片のまきちらし。あとで破片を集めると、なるほど一枚のジグソーパズルが完成するという驚きに満ちた迷宮のような本である。パンチの利いたフレーズ。悪夢のようなフレーズ。覚醒と睡眠との間を行き来するようなフレーズ。それもそのはずだ。主人公は、不眠症で何日も眠っていない。人生そのものの悪夢。

 最初は自分らの肉体を傷つけることから始まってゆく。そのうちに社会を形成するあれこれの破壊へと彼らは向かう。全米最大の秘密結社、ファイト・クラブ。完全秘密主義の厳格な戒律。そいつを作り出した二人の男……怪物になってゆく。膨らんでゆく物語。空に舞う生活家具たち。空に舞う日常と言われてきたことども。爆破。徹底破壊。

 いきなり銃口を銜えたシーンで主人公のモノローグがスタートする。パラニュークはいつだってこうだ。高層ビルの屋上。散乱する家具たち。爆破の振動は未だおさまらず、主人公は銃口を突きつけられている。死への秒読みを開始されている。言葉のリフレインがスタートする。悪夢のフレーズ。きらめくような破片たち。凄味を増す言葉たち。リフレイン。究極のリフレイン。破壊へのパワーが徐々に膨らんでゆく。

 あっと言わせるラストシーン。読者を手玉に取るトリックの大きさは、まるでシックスセンスなみだ。どうやって映画に? 映画を見ていないから、ぼくにはわからない。映画化なんて不可能だろう。それが第一印象だ。とんでもない小説だから。破壊力満点。悪魔であり天才であるパラニュークの解読不可能な文体が、最後に魅せてしまうこの嘲笑のドラマ。唖然。ひたすら、唖然でしかない。なんという傑作!

(2003.11.25)