白骨




題名:白骨
原題:A Blind Eye (2003)
作者:G・M・フォード G.M.Ford
訳者:三川基好
発行:新潮文庫 2003.5.1 初版
価格:\743



 フランク・コーソのシリーズ第3作にして、きっとシリーズ最高傑作ではなかろうか。ページ・ターナーと呼ばれる本は多々あるけれど、あまりスケールを広げず、身の丈のうちで、小さな狂気を葛藤させてゆく、この作家の小説術には、独自の魅力と期待がいつも、ぼくの中で溢れ出してしまう。

 シアトルを遠く離れて、中西部を逃亡するコーソと、全身タトゥーの女性カメラマン、メグ・ドアティ。相変わらず反社会的なイメージの二人だが、本書はのっけから吹雪のドライブ、事故と遭難、白骨発見と、物語はとてもジェットコースター的に急速発進する。

 時折り、ストーリーと関係なく、少女の独白が混じるのは、後になってわかるが、コアに迫るための伏線である。第一作『憤怒』の落書き少年(落書きではなくタグ・アーチストと主張した少年)の描写みたいに。そしてその中に重要なメッセージが込められていることを暗示しながら、謎を追い、同時に逃げ回るコーソとドアティのコンビ。

 コーソの屈折した態度、鼻っ柱の強いセリフは、シリーズ中ずっと健在で、彼らの対決すべき敵の、あまりの冷血を、読者は肌をざわざわと震わせながら、どうしても避けられない、劇的なバイオレンスの渦中へとすべてが走りゆくのをじっと見守るのみ。

 コーソとドアティの微妙な距離感を描写しつつ、深まる謎と、増えてゆく死体の数々、その総毛立つような残虐の裏側に潜むなにものかを、イメージとして次第に膨らませてゆく。古びて閉鎖されようとしている修道院への訪問や、少数民族たちが作り、やがて壊滅した奇怪な山上の町。中西部の知られざる歴史と、その影の部分に迫り、暗黒小説の空気をぴんと漲らせつつ、タフな男と女は恐怖の核へと突入してゆく。

 ミステリやハードボイルドというよりも、活劇要素が強い。それでいて、心をざわめかせる恐怖の要素に満ちている。読後、冒頭のエピグラムに改めてぞくりとし、少女の独白に始まる複線の章をまとめて読み返してみることで、小説を味わい返す。仕掛けもやはり一流であったことに思い至る。唸らせられるひと時である。

 ちなみに、はじき出され、疎外される少年や少女になぜこの作家がこだわるのか? という問に対する答は、巻末解説の中に見つけることができる。謎の作家であったフォードの素顔が徐々に露わになってくる感じだ。

 シリーズはまだまだ続くという。フランク・コーソとメグ・ドアティ。自信を持ってオススメしたいタフで辛口な二人には常にサブ・ストーリーも存在するから、できれば『憤怒』『黒い河』『白骨』と順番に読んでいただきたい。

(2005/05/29)
最終更新:2007年06月17日 01:43