黒い河




題名:黒い河
原題:Black River (2002)
作者:G・M・フォード G. M. Ford
訳者:三川基好
発行:新潮文庫 2004.05.01 初版
価格:\781


 『憤怒』に続く、やさぐれライター、フランク・コーソのシリーズ第二弾。ノンフィクションの取材にかこつけながら事件にどっぷりと突っ込んでゆくコーソの魅力的なキャラクターがこのシリーズを当分の間引っ張ってゆく気配が感じられる。外見はポニーテールの巨漢であり、まるでスティーヴン・セーガル。その想起しやすいキャラクターに軽妙な話術を与え、どこにも組しない一匹狼の頑固を副えるとコーソの出来上がり。

 さらに導入部の迫力。快テンポ。一筋縄では行きそうにない殺し屋たちを最初に登場させておいて、読者側にだけ明らかとされるサスペンスを盛り上げ、一方でじっくりとコーソの人生観を描いてゆくネオ・ハードボイルドの手法。『憤怒』以上に集中力を感じさせる絞込みのうまみ。

 さらにコーソが掴んで放さない、一握りの愛情の行方が興味深い。恋人以上に愛情を降り注ぐコーソ。犠牲になった女の存在。付け狙う殺し屋たち。そうした構図が物語をぐいぐいと引っ張り続けるために、緊張感はついぞ途切れない。気休めはコーソのへらず口のみ。

 前作になかった法廷スリラーの迫力を劇中劇のように盛り込む一方、現在という時制を感じさせる秒刻みの章立て。まるで短編のようにすらすらと楽しめるスーパー面白長編の書き手が、忘れては成らないG・M・フォード。名前もタイトルも地味目で、出版社のセンスを疑いたくなるくらいだが、それを押して余りある迫力を持つ作品のインパクト。是非、大勢の方に味わっていただきたいコーソ・ワールドなのである。

(2004/08/04)
最終更新:2007年06月17日 01:45