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日輪の遺産





題名:日輪の遺産
作者:浅田次郎
発行:青樹社 1993.8.30 初版 1995.4.15 2刷
価格:\1,800

 そろそろアトランタ・オリンピックも終わると、毎年8月の終戦特番でテレビは賑わい始める。そうした時期にぜひ手に取って欲しいのがこの一冊。他の浅田次郎作品とはかなり毛色が異なるのだけど、文体、会話体はいつもの流暢さなので、ぼくは文字どおり一気読みしてしまった。

 作者初のシリアスな作品で、なおかつ冒険小説的要素、ミステリー要素の色濃い作品。現代と太平洋戦争末期を行き来する物語に、戦後と原題との不確定な境界のありさまを感じさせられる、少しばかり重い主題。

 この作者はいかなる作品においても、その時代時代における世相を背景にして、弱者たちの誠実な生きざまを描こうとしているように思えるのだが、この作品も例に洩れず、そういった時代に押し潰されようという弱者たちの精一杯の生きざまが凄い。

 一癖も二癖もあるキャラクターたちの優しさばかりが目立つが、歴史の残酷と無情にはこのくらいの筆の優しさはどうしても欲しくなるところだと思う。そのせいで物語にリアリティがなかったり、ストーリーの甘さがあると言われればそれまでだが、敢えて小説的なバランスを崩してまで作者の弱者たちへの優しい眼差しを感じさせる志向というのは、この浅田次郎という作家のもはや最強の武器と言えると思う。

 そういう視点を大事にして欲しいし、今後の彼の作品にもぼくはずっとこのあたりを期待してゆくのだと思う。

(1996.08.03)