プリズンホテル冬





題名:プリズンホテル冬
作者:浅田次郎
発行:徳間書店 1995.9.30 初版
価格:\1,500

 前作に比して物量的には小さくまとまったシリーズ第三作だが、見所は『きんぴか』で印象に強いナース・血まみれのマリアの復活と、そのど迫力。また新たなキャラクター武藤嶽男なる山男の存在と、ホテルの厨房中心に造られたアジサイ山岳会等々、楽しさの爆裂に相変わらずの一気読み。

 谷川岳をモデルにした峻険な冬山を背景にした生と死、相変わらずの小説家の母と子の苦悩、愛憎の葛藤など、辛口の問題が、笑いに満ちたホテルというオブラートの中できらめいている。巧さに満ちた作家の、味わい深い文体による、一つの完成された世界とも言えるこれはそういう作品だ。

 シリーズは小説家の主人公の救済をクライマックスに持って行きたいところだが、そう容易に辿り着ける道筋ではなさそうだ。多くの名セリフに彩られたまま、このシリーズはさらに次の季節を待たれているようだ。 

(1996.07.07)
最終更新:2007年06月04日 23:28