霞町物語





題名:霞町物語
作者:浅田次郎
発行:講談社 1998.8.20 初版
価格:\1,500

 短編集かと思いきや、連作短編集で、一冊がきちんと物語で繋がった本なのであった。連作短編集といえば『天切り松 闇語り』がそうだし、あちらとこちらでは時代が大いに違うものの、内容的には合い通じるものがいっぱいある。基本的には同じ土台に作られた建築様式の異なる家……といったところか。

 とりわけ『雛の花』で描かれた祖母については、思いきり時代を移して『天切り松……』に登場してもまったく遜色ないキャラクターで、思わず読者が惚れるくらいの魅力を振り撒いている。

 『遺影』『卒業写真』での祖父の姿には、これはもう泣けるとしか言いようがない。主人公の青春シーンでの軟派だのお洒落だのは、ぼくには感じるところ皆無に近いのだが、若者以外の部分はテキヤの兄ちゃんを含めていいものをいっぱい感じる。

 『地下鉄(メトロ)に乗って』ではファンタジックに、この本では思いきりノスタルジックに、かつての東京……失われた東京、またそこに生きる伊達な人々を描いたのだ。浅田次郎には古い時代の話がよく似合う。この作品集は、古いアルバムのようだ。そう。時を越えて何度もめくりなおすアルバムのようだ。

(1998.11.15)
最終更新:2007年06月04日 23:27