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天国までの百マイル





題名:天国までの百マイル
作者:浅田次郎
発行:朝日新聞社 1998.12.1 初版
価格:\1,500

 現実と寓話が渾然となった、浅田節の持ち味がきらりと光る、地味~ィな一冊。日常生活に行き詰まった主人公が、周囲とのさまざまな形での絆の中で、大いに葛藤する物語。多くの失敗を重ね、周囲からも軽んじられ、自らも誇りを捨て去ったような生活の中で、中年男が唯一取り戻したのが母へのやさしさだった。

 そのやさしさを行動に移すことの難しさ。家族のエゴゆえの抵抗を受けながらも、押し付けられた母の命に、「仁術」を旨とする医師の助言を得て、旅を決行する。

 千葉房総の果てにあるという病院は、実際には勝浦にある亀田総合病院をモデルにしているように思う。とんでもないところに位置していながら、心臓外科の手術を得意とし、設備が整った大きな総合病院であり、10年前に院長は小笠原へのドクターズ・ヘリ運行を夢見たりしていた。

 作者がどこでこの病院の情報を得たのか知らないけれど、ぼくの場合、ここには何度か仕事がらみで行ったことがある。まだ高速が伸びていない時代で、東京との距離は大変な時間と労力を要した。ぼくはハンドルを握って、この病院から帰るのにいくつもの山を越え、街を越えて、帰りは深夜近くになった。そうした長大な距離を、母の命を載せて旅をする物語。

 浅田次郎の新しさが垣間見えるストーリーだけど、最近読むほうが短編慣れしているだけに、一気読みのこの本は、なんだか少しだけ長い短編小説のような味わいだった。

(1998.11.26)