シェエラザード







題名:シェエラザード 上/下
作者:浅田次郎
発行:講談社 1999.12.6 初版
価格:各\1,600

 現代史の物語はひさびさだと思うけれど、何故かぼくには切れの悪過ぎる小説っていうイメージが残る。最近、短編集を乱発していた浅田次郎だけれども、彼の正体は本来短編作家であるのかもしれない。

 思い当たる節はいろいろある。彼の人気を不動のものにした『プリズン・ホテル』にしてもそれ以前の連作小説『きんぴか』にしても、エピソードの蓄積物という印象があって、いわゆる大きな長編小説的なイメージというのはあまりない。体裁は長編であっても、そのほとんどが、どちらかと言えば短編の重なった連作小説。長編としてまとまりのいいのは『天国への100マイル』とか『珍妃の井戸』初期の頃では『日輪の遺産』と言ったところだろうか。

 少なくともこの『シェエラザード』には長編らしさがない。かと言って短編の蓄積とも言い切れない。短編をやたら薄めてストーリー軸に引き伸ばしをかけたような冗長な印象の方が逆に強い。もちろん文章そのものは浅田ならではのものだし、他に類を見ないリズムや調和はいつも魅力的だと思う。会話だっていつもの「泣ける」浅田節が健在なのだ。

 でも、それにしても冗長……、一つ一つのエピソードでつぎはぎだらけにされた長い話、と思えてしまう。考えられる理由としては、主人公の不在っていうこともあるのかもしれない。多くの人物にピントを合わせ過ぎたために、焦点の合いにくい話になっているからなのかもしれない。だったら短編の方がまだ切れがある、と思えてしまう。『天切り松 闇語り』の二冊は大絶賛してしまうけれど、逆に力作なのかもしれないこちらは、落ちる、ように思えてならないのである。

 救世軍の老兵士のようなせっかくの人物を配しながらも彼の人生に絞り込んだ小説、と言い切れないところに少し不満が残った。謎の中国人の正体については逢坂マジックを思わせるけれども、これだけの長編でありながら、その後の引き揚げの物語が……(ネタバレになるので自重……)というのも、どうもしまりがない印象であった。

 少し情緒的であり過ぎるのだ。せっかくこれだけの大きな題材を扱うならば、もう少し散文的なストーリー展開についても楽しませていただきたかった。

(2000.01.23)
最終更新:2007年06月04日 23:15