天切り松闇がたり 第三巻 初湯千両





題名:天切り松闇がたり 第三巻 初湯千両
作者:浅田次郎
発行:集英社 2002年2月28日 第1刷発行
価格:\1500

 版元を変えてまで出した二冊にまだ足らずと三冊目まで出してしまった天切り松。浅田の好きな対象ロマンを、獄中の語りのプロの名を借りて得意の口語体駆使した短編集なのだが、さすがに三冊目ともなると、作者はともかくこちら受ける読者の側が、同じパターンの仕掛けに少々食傷気味であり、腹ごなしが悪い。

 連作シリーズでも本作のように一話一話、鋭いキャラクターとしての役割をヒーロー、ヒロインに振りつつ、彼らの際だった技と、優れた精神性を表現してゆく手法は最初のうちこそ驚きも確かにあり、ぼくはこのシリーズが好きだったのだ。だが、さすがにもう新しい人物ではなく、同じキャラクターの使い回しで話をこしらえているところが、連作短編にしては珍しいと言える三冊目、そこへの無理だったと思える。

 幅跳びだって何段も何段も跳びつづけていれば、距離は縮まる。最初のひと跳ねが喝采もののシリーズだったけに下手に続けず、終わりにしておけばよかったのに、というのが、今回の残念な感想。だいぶ前に読んだのだけれど、こういう本意ではない感想というものはやっぱり書きにくいのです。

(2002.12.06)
最終更新:2007年06月04日 23:05