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沙高樓綺譚





題名:沙高樓綺譚
作者:浅田次郎
発行:徳間書店 2002年5月31日 第1刷
価格:1600円




 いくら大正やら昭和初期やら、古き良き時代の東京が好きだからって、やはり怪盗団ばかり書いていては息切れがするので、手法を変えての連作短編を今度は作ってみました、いかがなお味ですか? っていうような、得意の口語体浅田節を駆使した次なる作品集がこれだろう。

 こんな文体でものを書くというのはいかにも難儀だと思うけれど、完全に言葉を楽しんで使っていると思われるのがいつもの浅田次郎。小説家というよりは講談師の才気か。小説家ほどには長い息が吐けないので、基本が短編集にあって、しかも口語体。浅田の限界でもあり、浅田の面目躍如でもある。どう取るかはこちらの気分次第。

 一、二話読んでしくじったかなと思った。落ちも劇的なシーンもなく、浅田があまり得意としないところのねじれた話を書いているせいなのか。口調は滑らかだが、どうも乗り切れないのは、天切り松の第三巻と同じ印象で、少し浅田のスランプを感じる。

 三話くらいから調子が出てきたのは映画、新選組と過去の作品でも題材にした道具を使い始めたからか。四話は軽井沢の貴族屋敷のガーデニング、美しい花や木々を育て守る女性の話で、こういうゴージャスな美しいものを描写する話も浅田はどうやら得意。最終話、組の大親分の語りになってさらに元気を取り戻すが、やはりこの辺にになると読者としてのぼくは落ち着く。

 浅田の魅力は繰り返しの魅力であるのだが、貧富、強弱、美醜のコントラストを強くして、そして結局最後には弱者の美しい心というところに落ち着くところが、彼らしい。嵌ると涙が出てくるのである。今回の涙シーンは最終話、上野の猿山なのであった。じーん。