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壬生義士伝




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題名:壬生義士伝 上/下
作者:浅田次郎
発行:文藝春秋 2000.4.30 初版
価格:各\1,524

 新撰組ものは基本的に好きなので、作品にもどうしたってぼくの場合、甘めのフィルターがかかる。なのでこれは久々に堪能した浅田節長編小説。

 相変わらず長編と称しながら、その実は連作短編の形でしか一つの大きな世界を表現できないのだけど、このあたり最近の浅田は確信犯かな。一応主人公を定めておきながらも、どうしてもそれを取り巻く人間たちの主観にも流れる。浅田次郎の小説作法はどうしてもこの視点の流れがあるために、短いエピソードの積み重ねによって大きな流れというか、うねりのようなものを創り上げてゆくことになる。

 『シェエラザード』の感想ではそのへんが、この作家の悪いところだと映ったのだけれど、逆にそれを上手く利用したのがこの作品。各所に感動シーンが偏在してあるんだけど、それなりに歴史と日本の経済構造のようなところを時代のうねりとして描いているところが、大仕事の成果として認めたいところ。残酷物語と説教臭さと人間ドラマが見事に融和した浅田ならではの幕末伝に仕上がっている。

 さて幕末というものの持つ最大の魅力は、価値観の崩壊だと思う。多くの価値観、つまり生きざま死にざまそのものが見直されてリニューアルされる時代だからこそ、そこに人間群像の赤裸々な姿が浮き彫りにされてゆくのは当然のことだし、これを見つめる作家たちの歴史への批評眼もそれぞれ違っていて面白い。

 個人的にはぼくの風変わりな本名の姓について南部の寒村で畑を耕すある集落のもの(当然父の生地でもある)であり、岩手にはたまたま生涯の友人も数人いたりして、血が合う。何度も岩手に行っていて、盛岡も好きだったりする。浅田の南部訛りによる口語体の上手いこと。岩手の友人たちの方言を耳にしているかのような心地よさ。そして岩手の広大さ。何せ、北海道の次に広い土地であり、四国四県は丸ごと入ってしまう面積。そうしたすべてのことを良く調べ抜いて書いている作品だと思う。東北人はこれを読んで誇りに思うべしである。

 また日本のその後の悪政や軍国主義による好戦への流れ、貧富の差の再形成などについては、維新の運び方が利権や保身目的(今と変わっていないか)に原因があるとよく言われている。会津を落城させたのも、交渉に物事を持ってゆかず幕軍を函館まで追い詰めたのも徹底的な独裁を維新後に図るためだと。浅田次郎は、坂本竜馬の理想(国内は和議して外国に一丸として対する理論)が崩壊したことを書いているが、背景そのものはあくまで事実だう。

 国益というのはいつも常に好戦側が使う「言葉の道具」に過ぎず、裏にあるのは常に独裁であり蹂躙だ。そうした歴史への批判と常に犠牲となる民草の「誠」であり「義」であるものを浅田は徹底してこの作品に込めた。ぼくはそういう作家的な志が込められた本がやはり好きなのだ。

(2000.05.04)