ルパンの消息





題名:ルパンの消息
作者:横山秀夫
発行:光文社カッパ・ノべルス 2005.5.25 初版
価格:\876



 売れっ子・横山秀夫でいきなりノベルスとは珍しい。と、思ったら、この作品、サントリーミステリー大賞を逃したデビュー前の佳作に手を入れたものらしい。確かに今の短編主体の文体ではなく、普通に長編小説で何かを狙ったという痕跡はある。でもこれはそのとき選者たちに読まれたものではなく、15年という時を経て、作者自らが手を入れたものだ。今の横山ファンにとっては、古い幻の作品でありながら、今、新鮮を感じることのできる獲れたての出荷物でもあるわけだ。

 ファンにとっては、そういう意味で、とても興味深い作品が日の目を見た。考えようによっては15年かけて世に出した丁寧な作品だと言うことができる。実際に読んでみると、後者の印象が強い。ちょうど新作『震度0』と併せて読んでみたけれど、横山秀夫を知らない読者に、どちらを薦めるかといえば、ぼくは間違いなく本書のほうを進めるだろう。そのくらい、フレンドリーで入り込みやすい作品であると言えるからだ。

 15年前に起こった女教師自殺事件は実は殺人であった、その日、遺体が発見された高校校舎には実は三人の不良生徒が試験問題を盗みに侵入していたとのタレコミを受け、15年後、当の三人が捜査本部に読み出され、警察側はまるまる24時間の事項成立前にこの事件に挑戦を開始する。とにかく、お膳立てを序盤で整え、読者を釘付けにする。捜査陣の警察内部の描写は今に繋がるが、落ちこぼれ高校生たちの回想シーンには、青春そのものへの暖かなまなざしがあって、そこだけは今の横山とは少し異なるマイルドさを感じる。

 そして次第に明らかになる、彼らの目線を通した教師という大人たちの世界。教師と生徒の落差をここまで浮き彫りにしているという意味では、巷の教育書など蹴散らすほどのリアリティで、横山は、教師にも聖性を与えず、むしろ彼ら彼女らの弱さを掘り崩す。

 さらに思いも拠らぬ事実の上に、さらに重なってゆく真実と、真相は幾重にも重ねられた時間の魔法によって奥深い。その上サブストーリーとも言える、15年の時間がもたらす劇中劇の見事さ。横山秀夫のドラマは輻輳し、重なり、交錯する。無駄のない物語の向こうに、なんとも凄まじいのが三億円事件までも題材として使いこなしてしまうその大胆さは、本当にこれが新人デビュー前の一作かと疑いたくなるほど。

 このプロットにこの大胆。これが後年の横山秀夫を作る基盤である。古いが、実はとても新しい、気の入った作品として、結果的にいいところに行きそうな本である。そういえば、高村薫という作家は、新人賞佳作で終わった『リヴィエラを撃て』に手を入れ、元は落選作である小説で、なんと直木賞を射止めてしまったのではなかったか。

(2005.7.24)