看守眼





題名:看守眼
作者:横山秀夫
発行:双葉社 2003.6.5 初版
価格:\1,700



 この人の短編集は、ある意味職人芸だと思う。ぼくの印象では、短編の得意だった初期逢坂剛の空気に近い。

 意味ありげですぐに入り込めるサスペンスの匂いや、意表を突く結末と、人間ドラマとしても上手く纏めてしまうフィニッシュのあり方。そういう意味でのまとめ方がとても決まっているし、ある程度強引だと思われる偶然性なども、現出した面白さの前には、ひれ伏してしまう。

 本書は刑事ものではなく、むしろ犯罪の側に近いところにいる一般の人々というスタイルで纏められている。この人の短編集が、ある意味職人芸、と感じるのはそういう部分も含めて、ということだ。雑誌連載であろうと、書き下ろしであろうと、必ずや、何らかの纏まりがある。この作品集では警察官は一人も主人公ではなく、この作品集では主人公や周囲の人々の間に犯罪が潜んでいる。ある意味、隠されていた犯罪がどのようにあらわになってゆくかという物語を集めた本なのである。

 だからこの作家の第一イメージである警察捜査小説とは、エネルギーの方向までが少し違っている。負のベクトル、というべきものがある。犯罪者そのものを主人公に据えれば、それだけ陰影が濃くなるのは当然だ。しかし、そこに不運その他が重なって、悪意が空回りしての破滅、ということになれば、むしろノワールの衣だって纏い始める。

 もっとも、さすがにノワールというところまで、この人は人間そのものの個性を描きはしない。横山作品に共通する欠点とも言える。人間追求はするけれど、個性をまでは切り出せない。ある意味、類型的な人物ばかりであるから、状況作りはできても、個性が動き出す独特の不条理といったものにまでは至ることがない。収まるべくところに収まってゆく。

 短編の場合、その収まりの良さが、居心地よく感じられるサスペンスともなるだろう。しかし、長編に移行すればそれだけでは済まないものが、きっとあるだろう。作風という罠は、こうして二兎を追えないところに陥ってゆく。専門化して、技をなお鋭く尖らせてゆくか、敢えて未開拓の部分を練ってゆくものなのか、この作家の今後楽しみな部分であるように思う。

(2004.05.30)