陰の季節





題名:陰の季節
作者:横山秀夫
発行:文藝春秋 1998.10.30 初版
価格:\1,429

 こうして、今さらながら横山秀夫の原点と言える作家的スタート時点の作品集に触れてみると、この作家はやはり短距離ランナーなのだと実感される。最近でこそ長編小説をものにしているけれども、短編でこうした切れ味を、しかも確実な鋭さを見せてくれるところからは、短編作家としての全才能が垣間見えるばかりだ。もともとブンヤであったこともあるのかもしれない。新聞記事を書いていたのかどうかはわからないが、新聞の文体は余計な装飾を排して、徹底して事実を主語術後の関係で表現してゆくことである。

 その乾いた口調が、彼の小説には一貫してある。それでいて書かれている物事は決して乾いてはいず、むしろウェットと言い切っていい範疇に属するものだ。日本語という表現、行間という間合いが実によく似合う作家であると思う。

 四作の短編。うち半分が書き下ろし。どれもが今の横山作品に通じるものであるばかりか、相似形の構図にあるとも言うことができる。松本清張賞を受賞した『陰の季節』は道具こそ違えど後の『半落ち』や『動機』に繋がるような寡黙な容疑者(刑事、あるいは元刑事)を追跡する物語である。彼の(彼らの)あっと驚くような犯行の動機が常に最後に物語の骨格をなしてゆく。それも一筋縄では行かぬような根幹のところで。深い響きをともなって。いつもそれが余韻となる。横山節と言いたくなる小説の作り。

 後の連作短編集『顔』の原点となる作品もここには収録されている。先に『顔』を読んでいると、どこかで聴いたような話だと思える。

 ぼくは横山秀夫を後れ馳せながら今年から読み始めている。数年間の彼の創作態度は、その間を通して豪も変わっておらず、常に一定し、一貫している。職業人たちのプロフェッショナルな姿勢を縦軸とすると、彼らを取り巻くプライベイトな環境が横軸となる。どちらも一枚の織物を綾なす重要な要素としてバランスよく描かれてゆくあたり、自分の現実に繋がるような思いがして、妙にリアルに感じられてならない。現代の生み出した代表的ミステリー作家であり、間違いなくトップランナーの一人である。

(2003.12.20)