燃える地の果てに







題名 燃える地の果てに
著者 逢坂 剛
発行 文藝春秋 1998.8.10 初版
価格 \2,095

 冒険小説と言うジャンルは廃れているのだろうか? あるいはエンターテインメントと言うジャンルは? 結論から言うと、ぼくは廃れているとは思わない。しかし、エンターテインメント小説の枠自体が広げられることによって、かつての単純に冒険小説と名指すことのできる小説はかなり減ってきていると、ぼくは思う。多くの面白さの要素が世界を席巻して、それこそぼくら現実との架け橋が多種多様に渡されることにより、かつてよりずっと多くの読者層を獲得するようになってきたのだと考えられるのだ。

 さて、だけどあの一時の日本冒険小説ビッグバンの時代、あの頃の作家たちのパワーや意気込みを懐かしいと思う気持ちが今になってもないわけではない。船戸、志水、佐々木、森……らとともにその時代を担ってきた重要な作家が思えば『カディスの赤い星』を捧げて登場した逢坂剛であった。  

 あの頃、『カディスの赤い星』が、あまりに長い作品であるという理由だけで版元に受け入れられなかったため、逢坂はいくつかのカディスにまつわる短編作品でデビュー(『幻のマドリード通信』『コルドバの女豹』<ともに講談社文庫>に収録)。作家としての認知を得て初めて本来の処女作『カディスの赤い星』で、なんと直木賞受賞を射止めたのである。こうした力作が認められなかった闇の時代が、日本エンターテインメント界にかつてあったことを考えると、今の長大作品ブームは、作家にとっても読者にとっても恵まれた時代としか言いようがない。  

 さてその逢坂剛が、懐かしいまでのエンターテインメントに徹した大作を、ほんとうに久々に書いてくれたのがこの『燃える地の果てに』。逢坂剛らしく現代史を踏まえ、なおかつスペインの辺境を舞台に、フラメンコ・ギターと失われた核爆弾を主軸にした物語を展開する。プロットの見事さに加えてラストのどんでん返しは、これまた逢坂節とでも言いたくなるほど見事で、あっけに取られるようなスティング小説なのである。 

 骨太の冒険小説が少なくなってきている現代、岡坂神策という親近感のある主人公を描く一方で、こうしたロマンチシズム溢れる大作を描ける逢坂剛という作家の振幅の広さを、今回は十分感じさせてもらった。昨年中に読んでおけば、『このミス』から外すことはなかっただろう。

(1999.03)