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眠り猫




作者:花村萬月
発行:徳間書店 1990.9.30 初版
価格:\1,300(本体\1,262)

ぼくや香介が、関口さんに連れられて、新宿<蔵人>のドアを潜ったのは、ちょうど『眠り猫』発表後間もない頃だったろう。<蔵人>には集英社の編集長に連れられて花村萬月が来ていた。関口さんが「『眠り猫』よかったよ!」と声をかけると、萬月さんは恐縮して喜んでいたっけ。ぼくは萬月さんのことも作品『眠り猫』のことも全然知らずにいたが、なかなかの作家であるらしいという噂が噂を呼ぶ頃には、『眠り猫』は既にそこらの本屋の棚から奇麗に消え失せてしまっていた。なお、新宿<蔵人>のこの夜のことについては『聖殺人者イグナシオ』のあとがきで触れられてもいる。

ま、そういう思い出も含めて読んだ作品であり、なかなか入手も遅れた作品であり、なんとなく大切に読んでしまった。たまにはこういう風に、大切に入手して、大切に読む本があったっていい。

大切に読んだせいか、とても感情移入してしまう作品であった。バイクとヤクザとドラッグと……萬月ワールドがゆるむことなく繰り広げられる。舞台は東京から急転、新潟のT市へと移動するが、バイク少年がテントを張る砂浜は、おそらく『重金属青年団』がキャンプし、セックスし、シャブを打つ砂浜と同じだろう。日本海の燻んだ風景とヤクザの抗争に荒れる街。『赤い収穫』や映画『用心棒』の設定を思わせる暴力の街に現われるのが、眠り猫一派である。うーん、昔の日活映画だなあ(^^;)

眠り猫とは主人公の渾名で、彼は元刑事の私立探偵。この男とその息子の親子関係が呆れるほどにすごい。そして同じ探偵稼業を営む元ヤクザがいい。ラスト近く、男たちのクールでタフでありながらも、温もりに満ちた心意気が伝わってくるほどに、文句なく情感の高まってくる(「泣ける」とも言う(^^;))佳品である。友のミステリアスな死に一丸となって立ち向かうチーム構成が素晴らしく、この作者にして最もプロットの練られた作品であると思う。

ともかく志水節が存在するように、若手でありながら萬月節というのも確かに存在してしまう。この点はすごいと思う。ハードボイルド・ファン、必読の一冊!

(1992/01/26)