鷲と虎





題名 鷲と虎
著者 佐々木譲
発行 角川書店 1998.10.30 初版
価格 \1,800

 ここのところ佐々木譲は第二次大戦ものから遠ざかってしまい、蝦夷ものだけに絞って読んでいたのだが、現状を確認したくなってひさびさに手に取ってみた。

 史実をよく調べて史実との整合性の取れた空想力豊かな物語り……というのが佐々木譲の特徴だと思うのだが、本作では史実の年譜的な意味合いでの羅列の印象が強く、そこにいつも生き生きと輝くはずの個人史というものが明かに足りていない気がする。

 もちろんパイロットたちには空中戦だけをやらせているわけではないのだけれど、タイトルすら霞むほど存在感を感じられない二人のパイロットというのは、小説としての失敗としか言いようがない。煮え切らない物語は、ついには最後まで煮え切らず、肩透かしを食らったかのように巻を閉じる。

 『ベルリン飛行指令』を期待して読むべき本ではない。史実に労力を裂いていることは明かなので、作者の冒険小説的な意図は空回りしたのだと思う。中身(つまり物語)のない、時間軸に沿った坦々たる年表の中に、飛行機野郎どもの冒険心が見事にかき消えてしまっているからである。

(1999.03)
最終更新:2007年06月03日 23:04