求愛




題名:求愛
作者:藤田宜永
発行:文藝春秋 1998.5.10 初版
価格:\1,524

 ひさびさに出くわした藤田宜永の長編である。驚くのはがらりと路線を変えたように思えたこと。何だか恋愛小説のようなタイトルであり装丁であるけれど、恋愛は方便に過ぎないような苛烈な物語である。別にソフトな路線に鞍替えしたわけではないので、ほっと胸を撫で下ろした。

 言わば、これまで『じっとこのまま』に代表される彼の名短編集の空気を長編に持ち込んだような作品であるのだ。肩に力を入れず、いたすらおとなの筆致で技巧を尽くして描いた印象であり、それなりの読み応えを感じる。

 どう見てもアンバランスな恋……その綱渡り的な二つの人生の交錯が最後にもたらすもの。この物語の中に仕掛けられたシーソー・ゲームであり駆け引きであるもの。ずしりとくる彼らの人生と、その行方。軽いストーリーでありながら読みごたえを感じた。かなり切り口を変えてくる作家であることがわかっているだけに、この次の藤田宜永の挑戦の方向がまた読めなくなる。常に期待を持たせる作家の一人なのである。

(1999.02.11)
最終更新:2007年06月03日 22:33