ぬくもり





題名:ぬくもり
作者:藤田宜永
発行:文藝春秋 1998.11.10 初版
価格:\1,333

 藤田宜永の短編集が楽しみでならない。彼は間違いなく短編の名手である。変な言い方かもしれないが、文体のなかでの乾き部分と湿り部分の配合度が好きである。日本の作家はどちらかに傾く傾向が強いと思うけれど、藤田宜永の適度なしっとり感というものは、けっこう類を見ない。

 愛であったり追憶であったり出会いであったり死別であったりと、さまざまなテーマを色分けしているけれど、ここに流れる無常感、そして生きるタフさ、そして重低音のように流れる情感のふくらみがたまらない味わい。

 短編集にはプロットの醍醐味はあまりないものかもしれないけれど、作家のエッセンスがシンプルに露出されているために、長編に繋がるさまざまな回路の発見がある。題材一つとってもそうなのだが、『ぬくもり』の主人公は長編『求愛』の主人公と同じ野球選手。『命日の恋』などは、奥方である小池真理子の気配漂う軽井沢での出逢いのメルヘン。

 一見染み目なプロットの並ぶ作品の底に流れるハードボイルドの魂。酒で言えば「しずく酒」とでも言いたくなるような、無駄を排した濃い口の一冊である。

(1999.02.11)