鼓動を盗む女





題名:鼓動を盗む女
作者:藤田宜永
発行:集英社 1997.5.30 初版
価格:\1,700

 ぼくは藤田宜永は、今や日本を代表する、もしくは代表してもいい、短編の名手であると思っている。『じっとこのまま』は志水辰夫もかなわない佳品集だと思っているし、相良治郎シリーズは、もうハードボイルドを書かなくなってしまった矢作俊彦の次代を担う私立探偵小説だとさえ思う。買いかぶり過ぎかもしれないけれど、短編できちんとしたプロットと締めの一文を用意するということは、すごく難しいことだろうし、実際思いどおりの本がそう多くはないからこそ、いい短編集は価値が高いのだ。

 さてここまで誉めておきながら、本書はというと藤田宜永短編集の中でも、とりわけ亜流である。日本短編集の中でもとりわけ亜流かもしれない(^^;)。幻想小説集とでも言おうか、本来モダンホラー部屋扱いになるのかもしれない本である。そういう意味では中島らも型短編集と言った方が正解かもしれない。「かもしれない」三連発をしてしまったが、まあそれほど異常に戸惑う本ということで。

 とにかくこんなカラフルな発想による、奇怪な世界の短編集も書くんだぞう、と言わんばかり。藤田宜永という多面体のまた新たな一面を楽しんでしまえる一冊であった。表紙絵がすごいので、ぜひ書店で眺めて味わってください。この作家にはこういうクラシックな絵も良く似合ったりするのです。同じクラシック趣味であっても、奥さんの小池真理子とはえらく雰囲気が違うところがいいのです。

(1997.11.25)