美しき屍





題名:美しき屍
作者:藤田宜永
発行:朝日新聞社 1996.8.1 初版
価格:\2,400

 手を入れたとは言え、初出でない作品が、ここにきて\2,400っていうのはいただけない。せっかくモダン東京シリーズとして4冊一気読みと行きたかったのだが、なぜか三巻目以降を手に入れることができないことなども手伝って、この作品止まりになりそう。それにしても、出版社、暴利だぞ。

 小説自体は『蒼ざめた街』と同じ味わい。またも素人助手が事件の追跡を手伝ってくれるなど、前巻の形式を踏襲したまま、ゴージャスな時代、ノスタルジィの帝都を、モボ探偵が歩き回る。当時、自動車に乗るっていうだけでもすごくロマンであろうし、その自動車が今の原チャリほどのスピードも出ないことに、時代の優雅さを感じてしまう。とにかくこの小説はそういう雰囲気を味わいながら謎を楽しむシリーズだ。

 この作品では今も絶えない一つのパターン「秘密クラブ」が登場。ゴージャスな時代の陰に常に隣り合わせて存在するソドム的退廃。それをあくまで健康的精神と若さに満ち溢れる探偵・的矢が追う、といったものだ。

 今までだれも書かなかった新しい探偵小説のシリーズとして驚きの世界の出現であろう。とはいうものの、2巻目からは、旧作に手を入れたもの。この作品も初出は1988年。それにしても新しい境地であることに違いないのである。 

(1996.12.21)
最終更新:2007年06月03日 22:26