蒼ざめた街


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題名:蒼ざめた街
作者:藤田宜永
発行:朝日新聞社 1996.7.1 初版
価格:\1,900

 うーん、ぼくはこういう本好きである。戦前の帝都を舞台にした探偵小説。主人公の名刺に擦ってある肩書きは「私立探偵」ではなく「秘密探偵」。帝都東京の香気の中をアメリカ帰りのモダンボーイ探偵がゆく。モボやモガが徘徊する帝都の描写、なんていうだけで、もう読者はこの時代、この世界に引きずり込まれてしまう。

 ニューヨークの馬車時代を背景にした『エイリアニスト』、ナチの台頭するベルリンを舞台にしたP・カーのギュンター・シリーズなど、すっごく歴史的に古くとんでもない時代に探偵という職業を配置し、事件を追わせる物語は、海外では多いけど、日本ではどうしても目明かしモノくらいに古いものしかなかなか見当たらない。

 江戸川乱歩があるじゃないかと言われても、あれはあれで同時代の作家が自分の時代を書いているわけだから、上記のような発想の美学はそこにはない。

 思えば藤田宜永という人は、わりとぼくら読者の日常から距離を置いた世界を舞台にしての作品が多いのかもしれない。作者の馴染みの地であるパリはもちろん、『鋼鉄の騎士』のようなヨーロッパの燃えた時代など、この作者ならではのものであった。

 そしてこの帝都を、ある意味でユーモラスに、明るく、それでいて事件は事件としてそれなりの困難と錯綜を持ち、猟奇の翳を前編に持たせる。モボ探偵の明るさが、本来なら思い時代であるべき風景や事件を、何とも美しい郷愁の場所へと変えている。本作を除き、以前出版している3作品をすべてハードカバー化していると言う。すべてを読む必要はないかもしれないが、とりあえず、この一冊で、ノスタルジックなセピアの時代に旅してみるのも一興だと思う。

(1996.12.21)