※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

クリヴィツキー症候群




題名:クリビツキー症候群
著者:逢坂 剛
発行:新潮社 1987.01 初版
価格:\1,130




 お茶の水の古ビルに「現代調査研究所」という私立探偵プラスアルファの事務所を構える岡坂神策を主役に一人称で描かれる短編連作ミステリーである。そして探偵プラスアルファのアルファの部分が何かといえば、正しくスペイン現代史に他ならない。何らかの形でスペイン内乱にかかわる人物や真相の調査を依頼されるという、作者のスペインへのこだわりがまたも前面に押し出された作品集なのである。

 そしてスペインについて調べてゆくうちに殺人が起きたりもする。こういう個性的な短編小説というのも楽しいものだ。全5作中『遠い国から来た男』『幻影ブルネーテに消ゆ』岡坂の異国でのストーリー。『遠い・・』はジェルジンスキー広場を中心としたモスクワのひとこまだが、ここで描かれているのはキム・フィルビー。『幻影・・』はスペインでのひとこま、サミュエル・ダシール・ハメットに纏わるエピソードといってもいい作品。かなり趣味的であるのだ。

 『謀略のマジック』『オルロフの遺産』は、まさに文献漁り小説。事務所が何のためにお茶の水に設定されていたかがよくわかる。岡坂神策が文献を漁るためだったのだ。そして文献漁りの過程が、かなりサスペンスフルで面白く描かれている。この本の末尾には参考文献が挙げられており、作中で取り上げられているペーパー類が実在するものばかりであることを証明している。そういう意味でも非常に高いレベルでの知的好奇心を満たすことのできる探偵小説であるのだ。

 そしてこの著者の面目躍如たる『クリヴィツキー症候群』。何とスペイン現代史と、精神分析スリラーとが、この一作において合体するのである。もちろんこれらは逢坂剛の2大テーマである。そして作品の傾向はこのどちらをテーマとするかによってけっこう離反して見えたのだが、ここではめずらしく一作中にまとめられた。そして内容は、何ともベリーベストなのだ。逢坂ワールドのすべてが凝縮されているのだ。

 とにかくこれほど全作品を安心して娯しめる作家も珍しい。溢れる才能を感じざるを得ないのだ。

 なおぼくはハードカバーで読んだのだけど、この本はつい最近文庫で刊行されているので、気軽に手にとって読んでください。ミステリーの見本みたいな一冊なのです。

(1990.04.18)